島村英紀『夕刊フジ』 2017年1月6日(金曜)5面。コラムその180「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

自然災害死者の90%が低中所得国の人々
『夕刊フジ』公式ホームページの題は「自然災害死者90%が低中所得国のナゼ 日本では弱者狙い打ち」

 自然災害にはいろいろあるが、ダントツの一位は地震による災害である。

 昨年秋に、国連が過去20年間に世界で起きた自然災害を数えて公表した。

 それによれば、1996年〜2015年の20年間に自然災害で135万人もの人々が死亡した。

 自然災害は、地震や火山噴火のほか、洪水や土砂崩れ、熱波、暴風雨といった気候変動に関連した災害もある。

 だが、地震と、それにともなった津波の死者は自然災害全体の死者のうち半分以上の75万人にも達していたのだ。

 これには2004年に起きたスマトラ沖地震や東日本大震災(2011年)による死者も、もちろん含まれている。しかし、これらだけではなくて、地震と津波による死者は自然災害では、ずっと一番多いものなのだ。

 じつは、そのほかに気になることがある。気候変動に関連した災害による死者が増えていることだ。この20年間で2倍以上に急増している。

 これは地球温暖化によって、「気象が凶暴化」していることの反映である可能性が大きい。これからは、もっと増えるかも知れない。日本でも、いままでにない大雨や竜巻が起き始めている。

 ところで、これら自然災害による死者は、日本で起きた東日本大震災を別にすれば、世界の貧しい国に圧倒的に多いのが特徴だ。この国連の統計によれば、この20年間に自然災害の死者の90%もが、低中所得国に暮らす人々だった。

 国別に見ると、いちばん多かったのはカリブ海に浮かぶハイチだった。

 ハイチは南北アメリカ大陸で最も貧しい国だ。そのハイチが2010年のハイチ大地震の被害から6年以上たってもまだ復興できていないのに、2016年10月はじめにハリケーン「マシュー」の直撃を受けた。踏んだり蹴ったりである。

 ハイチの地震はマグニチュード(M)7.0の直下型地震だった。スマトラ沖地震と肩を並べる犠牲者20万人以上という被害を生んだ。しかも、そのあとでコレラが流行して1万人以上の死者を生んでしまった。

 過去20年間のハイチの災害犠牲者数は合わせて23万人、ハイチの人口の6分の1にも達した。

 災害は貧しい国々を襲って大きな被害を生んでいるのだ。

 だが、日本も例外ではない。東日本大震災では高齢者の死亡がとくに目立った。60歳以上の死者は全体の65%にものぼった。なかでも70歳代と80歳以上は、ともに23%もあった。これは人口比よりもずっと高い。

 自然災害は貧しい国で被害が大きく、豊かな国でも、弱者をねらい打ちにするのである。

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