島村英紀『夕刊フジ』 2017年2月17日(金曜)5面。コラムその186「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

油断した人々をのみ込む津波地震
『夕刊フジ』公式ホームページの題は「油断した人々をのみ込む津波地震 南海トラフ、慶長地震に第3の学説がある理由」

 南海トラフ地震が恐れられている。

 南海トラフの大地震の「先祖」は過去に13回知られているが、このうちでも慶長地震には不思議なことが多い。もしかしたら、まっとうな「先祖」ではないのではないかと言われている。

 慶長地震が起きたのはいまの暦で1605年2月3日。「次の」宝永地震が起きたのは1707年だったから、100年しかたっていない。宝永地震のような超巨大地震のエネルギーがそんなに早く溜まるのかという疑問が昔からあった。

 そして、慶長地震では津波による溺死者が約5000〜10000人と甚大だった割には、地震による被害が、とくに西日本で小さかったことも不思議だった。

 慶長年間は20年もなかったのだが、慶長伊予地震、慶長豊後地震、慶長伏見地震など、西日本各地で大地震が相次いだ。これらの地震では被害や揺れの記録が書き残されている。だから、慶長地震の被害だけが記録されなかったことはあるまい。

 このため慶長地震が南海トラフに起きたのではなく、八丈島南方の伊豆小笠原海溝で起きたという学説が出されている。房総半島の東岸では、地震を感じて10分ほどで10メートルもの津波が襲ってきたことが、それを裏付けるように見える。

 だが、西日本でも大津波が襲ってきた。徳島県・鞆浦(現海陽町)で10メートル、宍喰(同)で6メートルもの津波が来て死者数千人、高知県でも甚大な被害を生んだ。伊豆小笠原海溝で起きた地震だとすると、途方もなく大きな地震でないと、房総半島から九州にかけての広い地域の大津波が説明できないという難点があった。

 このため、第三の学説が出た。それは「津波地震」である。地震断層の動きがゆっくりなために津波だけを大きく生む地震のことだ。

 人体に感じたり、建物を壊すのは、数Hz(ヘルツ)以上の短い周波数の揺れだ。だが、津波地震は短い周期の揺れよりは、数秒より長い周波数を強く出す。大した地震ではないと油断している人々を、大きな津波が襲うことになるのである。

 たとえば1896年の明治三陸地震はこの仲間だった。東日本大震災(2011年)よりも多い22000人もの死者行方不明者を生んでしまった。

 有名な津波地震は1946年のアリューシャン地震だ。地元のウニマク島を高さ35メートルもの津波が襲った。

 津波は遠くハワイ諸島も襲って約150人もの犠牲者を生んだ。この津波を契機に3年後、太平洋津波警報センターがハワイに作られた。太平洋全域の津波を監視して各国に情報を流している。

 この種の津波地震が、どういう条件のときに、どこで起きるのかは、まだ分かっていない。地震というよりも、海底地滑りに近いものが津波地震ではないかという説もある。

 南海トラフ地震は、同じような大地震が繰り返しているのではない。違うものが起きる可能性があるのだ。

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