島村英紀『夕刊フジ』 2017年3月10日(金曜)5面。コラムその189「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

東日本大震災から6年・・火山活動も活発化
『夕刊フジ』公式ホームページの題は「東日本大震災から6年…火山活動も活発化 M9・0は日本のどこでも誘発される」

 東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)から6年がたった。この大地震は火山にも影響した。

 地震はマグニチュード(M)は9.0という近年の日本を襲った最大のものだった。

 M9を超える地震は、それまで世界でも6つしか知られていなかった。もっとも古いものは1960年のチリ地震(M9.5)、東北地方太平洋沖地震の一つ前は2004年のスマトラ沖地震(M9.3)だった。

 この6つの地震は津波など、それぞれ大きな震災を起こしたが、そのほかに、近くの火山の大噴火も引き起こした。

 たとえば1952年のカムチャッカ地震(M9.0)では地震から3ヶ月以内にカルピンスキー火山など3つの火山が、そして3〜4年後にはベズイミアニ火山が噴火した。ベズイミアニ火山は1000年も休止していた後の噴火だった。

 2004年のスマトラ沖地震でも、4ヶ月〜3年後にタラン、メラピ、ケルートの3つの火山が噴火した。その後もマラピ山(2011〜2014年)、クリンチ山(2013年)、シナブン山(2013年〜2017年)の噴火が続いている。

 これらの先例では「近く」というのは震源から600キロ以内だった。つまり「近く」といっても日本の多くの場所を覆うような距離のものもある。つまり先例を信じれば、日本のどこでも噴火が誘発されても不思議ではない。

 御嶽山は2014年に噴火して、戦後最大の犠牲者を生んだが、噴火としての規模は大きなものではなかった。世界のM9の地震のあとでは、もっと大きな噴火が起きてきているのだ。

 M9.0という大地震は広い範囲に地殻変動をもたらす。東北地方太平洋沖地震の場合でも、宮城県牡鹿半島の先端で東南東に5.4メートル動いたのをはじめ、そこから遠くに行くにしたがって徐々に小さくなっていったが、それでも関東地方で30〜40センチ、もっと遠くても10〜20センチだった。この急激な地殻変動が火山に影響しないわけはない。

 じつは九州以南の火山にまで影響が及んだのである。大分県の鶴見岳と九重山、鹿児島県の諏訪之瀬島などでも、地震直後から火山性地震が増えたり噴気が増えるなど、火山活動が活発になった。

 もっと近くの秋田駒ヶ岳、秋田焼山、焼岳(長野岐阜県境)、乗鞍岳、白山(岐阜石川県境)も活発化したし、伊豆の大室山、伊豆大島、伊豆新島でも火山活動が活発化した。

 この活発化は、それぞれの火山の下にあるマグマ溜まりが地震で揺すぶられたためかもしれない。幸い、そのときには噴火前の「臨界」状態ではなかったから噴火はしなかったものの、長期的には、噴火に至るステージが上がったと考えられている。

 東北地方太平洋沖地震のように大きな地震は余震も百年以上続き、地震の影響は数年から数十年かかって浸透していく。余震だけではなく、これから火山の活動がどう推移していくのか、地球物理学者は注目しているのである。

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