島村英紀『夕刊フジ』 2017年3月17日(金曜)5面。コラムその190「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

新幹線を止めたのは有馬温泉だった
『夕刊フジ』公式ホームページの題は「新幹線を止めたのは有馬温泉だった 非火山性の温泉、熱源のナゾ 」

 3月のはじめに山陽新幹線がストップする事件があった。新神戸駅から約4キロ東にある六甲トンネルで白煙が出て、119番通報が相次いだからだ。

 だが、トンネル内には火の気がなく、焦げた臭いもしなかった。白煙は水蒸気だった。山陽新幹線の運転は間もなく再開された。

 六甲トンネルは有馬温泉のすぐ南側を通る14キロのトンネルである。六甲山近辺は温泉が湧きやすい場所だ。外気との温度差で水蒸気が発生したのだろう。

 日本に温泉は多いが、そのほとんどは地下にあるマグマが地下水を暖めて出来ている火山性のものだ。このため、マグマが生まれている東日本火山帯と西日本火山帯に温泉が集中している。マグマがさらに上がってくれば火山の噴火が起きる。

 ところで有馬温泉や紀伊半島にある白浜温泉など、有馬から和歌山までの近畿地方の温泉は火山性ではない。これらの温泉は「有馬型温泉」と呼ばれている。

 つまり近畿地方には火山がないのに温泉だけがあるのだ。なかには沸騰している温度のものもあり、塩分濃度が海水の2倍もあるものもある。

 この非火山性の温泉 がなにを熱源にしているのかは、じつは大きなナゾなのだ。

 「有馬型温泉」を生むメカニズムには諸説がある。なかでも有力なのがフィリピン海プレートの潜り込みで生まれた高温の熱水が脱水されて上がってきているという説だ。この辺の地下は、水が沸騰する温度よりははるかに高いが、それでもマグマを作る1000℃ほどの温度ではない。

 この「有馬型温泉水」の地下深くにはフィリピン海プレートがある。首都圏で関東地震(1923年)を起こしたプレートだ。本州の南にある南海トラフや相模トラフから潜り込み、日本列島の下を通っている。

 このフィリピン海プレートが潜り込んだ深さ100キロを超えるところまで来ると周囲の温度が上がり、岩が溶けて火山性のマグマが生まれる。

 他方、山陽地方や紀伊半島、そして四国ではフィリピン海プレートがまだ「浅すぎて」マグマが生まれない。山陰地方だけに三瓶山と阿武火山群という活火山があるのは、この構図のせいなのだ。

 そもそも、潜り込んだプレートが持ち込んだ海溝からの海水がなければマグマが生まれない。

 もちろん、水といっても、そのへんにある普通の水ではない。高温高圧の水だ。実験室で岩を溶かしてみると、水がないときに比べて200℃も低いところから岩が溶けはじめる。

 深部でマグマを作る前に、その水の一部が出てきているのが有馬型温泉だという説なのである。この温泉水は、ほかの地域のマグマ起源ガスと同位体組成が極めてよく似ている。

 有馬型温泉は海溝から取り込んでフィリピン海プレートが持ってきた海水が起源なのだ。

 つまり、有馬や白浜の温泉を楽しんでいる人たちは、はるか南方の南海トラフから、はるか昔に沈み込んだ海水に浸かっていることになるのである。

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