島村英紀『夕刊フジ』 2017年4月14日(金曜)。4面。コラムその194「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

熊本地震発生一年 通用しなかった経験則
『夕刊フジ』公式ホームページの題は「熊本地震から1年…続く余震、通用しなかった経験則」

 熊本地震から1年がたった。

 熊本地震から今年3月末までの約1年間に、同地震の活動域を中心に、人体に感じない小さい地震も含めた地震回数は九州で13万回、これは2015年に全国で起きた12万回を上回った。

 余震が熊本地震ほど多かった地震は日本で例がない。つい先月も震度3の地震に襲われた。余震はまだ続いている。

 たとえば阪神淡路大震災(1995年)では、余震は1-2ヶ月で収まった。かなり大きな内陸直下型地震でもこの程度で収まってしまう例が多い。

 一般に余震の数は本震のマグニチュード(M)が大きいほど多い。だが、M7クラスの地震だったのに余震が多い理由は、熊本が日本最大の断層である「中央構造線」の上にあるからである。中央構造線は鹿児島から熊本・大分を通り、四国の北をかすめ、紀伊半島を横切って長野県にまで達している長さ1000キロにもなる大断層だ。

 かつて1596年には九州から京都にかけて、慶長伊予地震、慶長豊後地震、慶長伏見地震が次々に起きたこともある。これからも、中央構造線に沿って起きる地震は注意すべきだろう。

 ところで気象庁は4月14日に起きた震度7の熊本の地震のあと、15日には「震度6弱以上の余震が発生する確率は20%」だと発表していた。震度7はまったく想定していなかったのだ。しかも、「震度6弱以上の余震は1週間程度続く」といったものだった。

 これを受けて、4月14日の地震の後、気象庁や政府が「家に帰れ」と呼び掛けていた。だが2日後の16日午前1時25分にもっと大きな地震が起きた。人々が寝静まっていた時刻だ。この地震で家が潰れて圧死した人数は前の地震の圧死者を超えてしまった。

 そもそも、余震には経験則しかなく、しかも例外も多い。気象庁が大きな地震のあとに発表してきた余震の見通しは、たんに平均的な経験例にもとづいているだけなのだ。余震についての一般的な注意を呼びかけてきたものにすぎない。

 余震が熊本地震の次に多かった例がある。2004年10月23日に起きた新潟県中越地震のときには、気象庁の予測発表を上回る余震が何度も繰り返された。

 地震後、10月の末までに600回、11月末までに825回もの有感地震(人体に感じる地震)の余震があった。気象庁が予想しなかった震度6強という強い余震も何回も記録された。これは地震断層がひとつではなくて複雑だったためだ。

 幸い、この新潟県中越地震での余震の見通しの間違いは、それほどの被害は生じなかった。

 だが、熊本の4月16日の地震(M7.3)はM6.5の14日の地震よりも多くの人が亡くなってしまったのだ。

 気象庁は4月20日になって、余震の発生確率について「今回は過去の経験則が当てはめられず、発表できない」として発表を取りやめてしまったのである。

 それまでは、余震の発生確率は大地震が起きたときには必ず発表されていた。気象庁は白旗を挙げざるを得なくなったのだ。

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