島村英紀『夕刊フジ』 2017年4月21日(金曜)。4面。コラムその195「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

永世中立国を襲う揺れ
『夕刊フジ』公式ホームページの題は「永世中立国を襲う揺れ…過去には都市壊滅させた大地震も」

 スイスでもたまには地震が起きる。

 3月上旬にスイス中部で起きた地震は、スイスでここ数年の間に観測した最大の地震だった。不安を感じた住民が同国のチューリヒ工科大学の「地震サービス(SED)」に接続しようとしたので、ウェブサイトがアクセス不能になった。地震を感じた200キロ圏内の約5000人が同時にホットラインに殺到したのだ。

 この地震はスイス中央部の多くを占めるドイツ語圏の全域で感じられた。地震のマグニチュード(M)は4.6だった。

 幸い、被害は壁のひび割れ、水道管の損傷、煙突の崩落程度だった。

 日本では小さな地震でも、スイスでは大きな騒ぎになる。スイスに地震が起きたとき、人々の頭に最初に浮かぶのは1356年に同国北部にあるバーゼル市を壊滅させた地震だ。この地震のMは約7だった。

 スイスなどアルプス北端は、中程度の地震危険地帯だという学説がある。これはアフリカプレートがヨーロッパ大陸が載るユーラシアプレートを押していることによる。

 昨年、イタリアで地震が起きて大きな被害を生んだ。イタリアはスイスの南隣の国だから、スイスはイタリアと似たプレートの状況にある。

 スイスでも、小さな地震なら毎月のように起きる。今回の地震は月曜日の夜だった。だが、私のスイス人の友人で地震観測所に勤めている地震学者は、不思議に日曜日に地震が多くて、呼び出されることが多い、とぼやいていた。

 じつはスイスでは「環境にやさしい」と称された地熱発電が、小さな地震を起こしたために開発が中止されたことがある。

 これはバーゼル市内で行われていた「ディープ・ヒート・マイニング」という計画で、5000メートルの井戸を掘って、年間2万メガワット時(MWh)の電気と、年間8万MWhの温水を得ようとしたものだ。

 このときに起きた地震のMは3.4。物的被害はあったが、怪我人は出なかった。この地震のせいで裁判沙汰になった。

 判決では、開発会社の責任者は無罪になった。二酸化炭素を出さないのが取り柄ではあったが、バーゼル州政府はリスク分析データをもとに、計画の中止を決断した。

 スイスには原子力発電所もある。1969年以来のもので、現在5基、約337万kWの原子力発電所が稼働している。

 福島での事故はスイスの人たちをも震撼させた。それ以来、発電所や送電にも耐震規定が作られている。たとえば2012年には耐震電力供給の規定が作られ、変電所建設に適用されはじめた。

 地震国の隣国であり、過去に大地震も経験したスイスは地震に敏感なのだ。

 将来もいつかは、1356年にスイスで起きた地震のように、一つの都市を壊滅させるほどの地震が起きる可能性を否定できない。地震国日本よりも地震は少ないとはいえ、欧州中部の地震は、それなりに心配なのである。

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