島村英紀『夕刊フジ』 2017年7月21日(金曜)。4面。コラムその207「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

動物は地震を予知しているのか?
『夕刊フジ』の公式ホームページの題は「動物は地震を予知しているのか ナマズ40匹の行動を昼夜監視したが…」

  動物が地震を予知するのかどうか、昔から解けていない問題だ。

 「正統派」の地震学者は、このテーマを避け続けてきた。動物の行動の異常が「必ず」来るべき大地震に結びつくのか分からないし、地震がないときにも動物の異常がある。これらが本気で取り組まなかった理由である。

 だが、このほど正統派の地震学者ではないドイツにあるマックスプランク鳥類学研究所が、動物の地震予知研究に乗り出した。

 ドイツには地震がないから、欧州の地震国イタリアでの動物の地震予知を研究している。イタリア中部では2016年8月に大地震があった。300人以上が犠牲になり、中世以来の石造りの建物も壊れた。

 地震が起きたすぐの場所には牧場があり、そこに飼われている動物に「タグ」をつけた。動物は多種類にわたり、羊、牛、ウサギ、七面鳥、ニワトリのそれぞれ数頭に取り付けた。飼っているイヌにまで取り付けた。大地震のあとの10月のことだった。

 このタグには、動物の動きの向きや動く速さが記録される。このほか、動物のいた位置や高度、それに温度や湿度も記録される。タグは取り付けた太陽電池から電力を供給される。

 つまり、動物がなにかの行動を起こせば、それがコンピュータに記録される仕組みだ。

 タグをつけてから、いくつもの地震があり、その前に動物の異常な行動があったと担当の科学者は言う。しかし、データは解析中で、まだ論文にはなっていない。

 「正統派」地震学者には、突っ込みどころがある。イタリア中部では、8月の地震の余震が続いていた。つまり、動物が「来るべき地震を予知して」行動したのではなくて、ごく微小な余震での揺れや微弱な地電流や地磁気の変化を感じて「余震を受けて」行動した可能性を排除するのは難しいからだ。

 日本ではナマズが地震を予知するかも、というので、神奈川県水産技術センターが取り組んだことがある。研究は1979年から6年間続いた。

 研究は本格的で、ナマズを40匹も飼った。大きな水槽に5、6匹を入れたほか、もっと自然に近い環境もということで大きな庭の池に三十数匹のナマズを放した。

 こうして地震の前にナマズがどんな行動をするかを昼夜監視した。ナマズに「気づかれても」まずいので、人間の姿が見えないよう、池では超音波を使った魚群探知機や、水槽では可視光線を使わない光電管を使って、ナマズの動きを無人で記録したのだ。

 だが、これだけ周到な研究でも、ナマズの地震予知は出来なかった。

 物理学者の寺田寅彦は伊豆半島沖の定置網にアジやサバが多くかかったあとに地震が来たことを記している。1930年代のことだ。

 本当は生物学がもっと進歩して、なぜ網にかかったのか、魚に聞いて見られるようになるのが一番だろう。それまでは、イタリアのように動物につけたタグのデータで一喜一憂するしかないのかもしれない。

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