島村英紀『夕刊フジ』 2017年9月15日(金曜)。4面。コラムその215「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

世界各地で被害を生む「長周期表面波」
『夕刊フジ』公式ホームページの題は「日本の高層ビルは安全? 世界各地で被害を生む「長周期表面波」とは」

 9月14日は長野県西部地震が1984年に起きた日だ。マグニチュード(M)は6.8。内陸直下型地震で長野県・御嶽山山麓で起きた。

 死者・行方不明者29人を生んだほか、地震学にも大きな問題を提起した地震でもあった。

 それは「長周期表面波」だった。表面波とは、普通の地震波とちがって、地球の表面しか伝わらない。物理的に言えば、距離の二乗で減衰するから、普通の地震波が距離の三乗で減衰していくのとちがって、遠くまで弱まらずに伝わっていく。

 関東大震災(1923年)以来、日本のビルの高さは百尺(31メートル)に制限されてきた。だがその建築制限が1963年に撤廃されてから日本の多くの都市に高層ビルが建ち並ぶようになっている。

 しかし、その種の高層ビルが長周期表面波でどのくらい揺れるのかは未知数だった。遠くまで弱まらずに伝わってくる長周期表面波が高層ビルを共鳴させて大きく揺れるのではないかという心配があったのである。

 このため、村松郁栄さんという地震学者(当時、岐阜大学教授)が、この種の長周期表面波を測れる地震計を開発して、出来はじめたばかりの高層ビルに設置しようとした。

 だが、どのビルも嫌がった。もし大きな揺れで被害が出たら裁判で負けるのではないか、被害が出なくてもその高層ビルが揺れたことが知られたら客商売などで不利になるのではないかと、どのビルも恐れたのである。

 村松さんがやっと見つけたのは新宿の超高層ビルだった。ビルの名前を論文にはけして出さないという約束で、屋上と地下室に地震計を置かせてもらったのだ。

 その地震計が最初に記録した大地震が長野県西部地震だった。震源から200キロも離れていて東京の震度は3だったから地上では何の被害もなかった。朝9時前で寝ている人もほとんどなく、歩いていて地震だと気がつかない人も多かった。

 しかし地下では2センチしか揺れなかったのに、最上階では地上の20倍もの揺れが記録されたのだ。

 この地震では、ほかにも東京の超高層ビル群の多くで、エレベーターの「管制ケーブル」が切れてしまった。そのうえ、震度3という小さい震度ゆえ、大きな地震のときにエレベーターを緊急停止するための特殊な地震計も働かなかった。

 先週、メキシコ南部でM8.1の地震が起きて大きな被害を生んだ。

 だがその前、1985年のメキシコ中部の沖で起きたM8.1のメキシコ地震では400キロも離れた首都メキシコ市で数千もの建物が崩壊し、1万人以上が死亡した。遠くでも弱まらない長周期表面波の仕業だった。

 最近は日本でもいくつかの高層ビルでようやく事後対策がとられ始めている。

 しかし、ビルの設計のときにどのくらいの地震波が来るか知らないまま多くの高層ビルが建ってしまっているのは心配なことである。日本でも、もっと大きな地震が襲ってくる可能性があるのだ。

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