島村英紀『夕刊フジ』 2017年10月27日(金曜)。4面。コラムその221「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

幾度も文明を滅ぼしてきた火山
『夕刊フジ』公式ホームページの題は「300年続いた王朝を滅ぼした火山の大噴火、ようやく解けた歴史上の“ナゾ”」

 古代エジプト最後の王朝のプトレマイオス3世が、優勢だった軍事攻勢を突然、中止した。紀元前245年のことだ。

 だが、その理由は分かっていなかった。相手は宿敵セレウコス朝。現在のシリアとイラクに当たる地域を中心に栄えていた。

 そして、その後、プトレマイオス朝は滅亡する。

 もともとプトレマイオス朝が栄えた背景には、広大な穀物畑があった。これは、毎年起きるナイル川の夏の洪水が農産物に適した栄養豊富な泥を運んできたことと、9月に川の水が引いた後は、水路と堤防を作って水を貯蔵していたことによる。

 戦争の中止と王朝の滅亡。この歴史上のナゾは、この10月に発表された論文でようやく解けた。火山の噴火が原因だった。

 近くに火山がないエジプトでも、火山の大噴火がはるかに離れた文明を滅ぼしてしまったのだ。

 紀元前3世紀と紀元前1世紀に過去2500年で最大級の噴火が起きた。起きた場所はエジプトよりも東にあるアフリカ東部を南北に貫く大地溝帯(だいちこうたい)。ここはプレートが生まれていずれ海ができるところだ。多くの火山が並んでいる。

 この噴火は、噴出物が空を覆っただけではなく、現在エチオピアになっているナイル川の源流が枯れ、穀物の不作を引き起こした。

 そのためプトレマイオス朝は食糧難に苦しみ、国内で大規模な反乱が起きた。こうして、軍の戦場からの撤退をやむなくさせたのだ。

 そのうえ二度目の大噴火が起きた。こうして約300年間続いた王朝は滅びてしまった。古代世界で最も農業生産性が高かった地域を大噴火がすっかり駄目にしてしまったのだ。

 じつは日本でも大規模な噴火で、当時、西日本で栄えていた縄文文化が途絶えてしまったことがある。いまから7300年前の鬼界(きかい)カルデラ噴火だ。

 鬼界カルデラは東西23キロ、南北16キロにもわたる大きなカルデラだ。東京23区の面積の6割にもなる。昨年の神戸大学などの調査で、まだ噴火のときの熱が残っているのが確認された。

 鹿児島市から約100キロ南南西にある薩摩硫黄島と竹島はカルデラの縁に作られた島だ。薩摩硫黄島の硫黄港に高さ80メートルの溶岩絶壁があるが、これは鬼界カルデラのカルデラ壁である。

 この大噴火が起きたのは九州の南方沖だったが、九州をはじめ西日本全体が大被害を受けた。この時代の縄文遺跡が東北日本や北海道だけからしか出土しないのは、このためだった。

 それでも、この鬼界カルデラは日本最大ではない。大きさで日本最大のカルデラは北海道東部の屈斜路(くっしゃろ)カルデラである。2位が阿蘇カルデラ、3位は鹿児島県の姶良(あいら)カルデラである。

 日本では大規模なカルデラ噴火が過去10万年間に12回起きた。

 最後のカルデラ噴火から7300年たっている。平均的な間隔から見て、今後、いつ次の大噴火が起きても不思議ではない時代になっているのだ。

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