島村英紀『夕刊フジ』 2017年11月10日(金曜)。4面。コラムその223「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

「火山透視」も遠い道のり
『夕刊フジ』公式ホームページの題は「ピラミッド透視で注目のミュー粒子、「火山透視」期待も遠い道のり」

 岩も通過する透過力が強い素粒子がある。ミュー粒子というものだ。

 これは、宇宙線が地球の大気と衝突して次々に生まれている粒子だ。寿命はたった100万分の2秒しかないが、1平方メートルあたり毎分1万個も飛んでいる。知らない間に私たちの身体も貫通している。しかし、なんの自覚もなく、害もない。

 この強い透過力をもったミュー粒子をセンサーで捉えると、通ってきた場所の密度の違いが分かる。

 このほど、エジプト・カイロ南郊にあるにあるクフ王の大ピラミッドをミュー粒子で透視したら、200人乗り航空機の客室の大きさがある部屋が発見された。4500年間、誰の目にも触れることのなかった部屋だ。

 さて、ここになにがあるのか、注目が集まっている。

 このピラミッドは紀元前2500年ごろに建てられた。230メートル四方あり、高さは139メートルある。世界最大の建造物の一つである。

 中世から内部が調べられてきて、ピラミッドの中には3つの空間があることがすでに分かっていた。それぞれは、王の間、女王の間、大回廊と呼ばれている。「王の間」に王のミイラはなかった。

 今回見つかったのは4つ目の空間で、いままで見つかっていなかった王の埋葬室ではないかと思われている。

 しかし発掘することはもちろん、ドリルで穴を開けてカメラを挿入するといった方法で調べる予定もない。これらの方法ではピラミッドに損傷を与えかねないからだ。

 ミュー粒子による透視はすでに米国で実用化されている。ウランやプルトニウムの密輸を防ぐために、怪しいと思われる船積み用のコンテナ輸送容器を開けずに外部からスキャンするための装置だ。

 この強い透過力を使って、火山の内部を見る試みが行われている。

 火山の中にあるマグマなどを見るために、浅間山や北海道の昭和新山などで行われた。

 だが、ミュー粒子を使った透視を火山に応用するには大きな制約がある。それはミュー粒子が上空から飛び込んでくるものだから、火山の上部にあるマグマは見えても、火山より下のものは見えないことだ。このため、火山より下、地下深くにあるマグマ溜りは見ることができない。

 とくに富士山ではマグマ溜まりがほかの火山よりも深いところにある可能性が高い。富士山の地下深くでは「低周波地震」が起きている。「低周波地震」とは、マグマの動きに関連していると思われている周波数が低い地震だ。その場所は地下15〜20キロと深い。富士山の高さの5倍以上も下になる。

 今回はミュー粒子を記録する装置を「女王の間」などピラミッドの中に置いて、その上にある空間を発見した。

 だが、下は見られない。富士山のマグマ溜まりを解明してマグマが上がってくるのを知るには、残念ながらまだ遠いのである。

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