島村英紀『夕刊フジ』 2017年12月1日(金曜)。4面。コラムその225「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

韓国の原発が揺れたなら
『夕刊フジ』公式ホームページの題は「韓国の原発が揺れたら…東海岸の事故なら風で日本に影響する可能性も 」

 韓国全土で一斉に行われる「大学修学能力試験」が一週間延期になった。試験前日の11月15日に地震が起きたためだ。

 学歴社会の韓国では、この試験は「人生を決める試験」とされている。英語のリスニング試験の時には全国の上空で飛行機を飛ばさないし、試験に遅れそうになった受験生を白バイで送り届ける恒例の映像が報じられるほどの国民的な大行事だ。

 地震は韓国南東部の慶州で起きた。マグニチュード(M)は5.4。震源に近い浦項市一帯では、建物の壁やタイルが崩れたりヒビが入るなどの被害があった。被害家屋は1100棟近くに上り、傾いて住めなくなった集合住宅もあり、1500人以上が避難した。76人が負傷した。教会の十字架も路上に落下した。

 浦項市は人口約50万人。韓国有数の工業都市だ。地震はソウルなど韓国全土で感じられた。

 韓国では2016年9月にもやはり慶州でM5.8の地震が起きていた。今回の地震は約40キロ離れたところで、観測史上2番目に強い地震だった。両方とも震源が浅い地震だ。もっとも、韓国で近代的な地震計による観測が始まったのは1978年からで、機械観測の歴史は浅い。

 一般に、朝鮮半島で起きる地震は日本よりもずっと少ない。これは、日本のようにプレート境界が近くないせいだ。

 だが、地震がまったく起きないわけではない。17〜18世紀には大地震が襲ったことがある。地震で死者多数、という記録がある。Mは7以上ではなかったかと推定されている。

 しかし、その後、大地震はない。このため、韓国のビルは耐震基準が日本よりも緩い。1988年から6階以上の建築物に、2005年からは3階以上または500平方メートル以上の建築物は耐震設計が義務付けられた。M5.5〜6.5の地震に耐えるようにという基準だ。だが、それ以前の建物はずっと弱い。

 地震のない国では、柱の上に床を置いて、その上に柱を置いて・・という、まるで積み木のようなビルを造っている。実際、私がモスクワ(ロシア)やブエノスアイレス(アルゼンチン)で見た。朝鮮半島もそれに近い建築が行われてきたにちがいない。

 建物なら、他国に被害が及ぶことはない。だが原発は別だ。

 前回と今回の地震では、韓国の原発には被害がなかったと発表された。

 同国で稼働している原発は24基あって電力の約3割を供給している。韓国に限らず「地震のない国」の原発は地震で大きな災害になった日本の原発よりも、もともと地震に弱い。韓国の原発は日本の原発の3分の1の価格で作られているという。

 韓国の原子力安全研究所の所長は「M7より弱い地震でも蒸気発生器が壊れたり原子炉に深刻な問題が生じかねない」とかねてから警告してきている。また2013年、部品の性能証明書の偽造が発覚して、原発4基が停止された。

 韓国の東海岸に集中している原発のどれかで、もし事故が起きれば、それが上空をいつも強い西風が吹く偏西風や、冬の季節風や海流に乗って、日本に影響することは十分にあり得るのだ。

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