島村英紀『夕刊フジ』 2017年12月8日(金曜)。4面。コラムその226「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

空から人工衛星が落ちてくる
『夕刊フジ』公式ホームページの題は「中国の人工衛星落下で日本に影響は? 世界の陸地の0.28%の面積、確率は高くはないが…」

 地震は地球の内部が原因で起きる災害だ。しかし地球の外から来る災害もある。

 中国の宇宙ステーション実験機「天宮1号」が、これから4月までのいつか、地球に落下する可能性が大きくなってきた。重さ約8.5トンもある。

 これは2011年9月に打ち上げられたもので、2016年に制御不能になって、地球の引力で落ちてきている。

 以前、米国ボーイング社製のロケット「デルタ」の推進剤タンクが米国テキサス州に落下したことがある。ドラム缶よりはるかに大きなものだった。幸い人のいないところに落ちたが、落ちる場所によっては大事故になったかもしれない大きさだった。

 いままでも放棄された宇宙船や使用済みの打ち上げロケットが地球に落ちてきている。

 大気圏に落ちてくるときにバラバラになるが、小さなものは大気圏との摩擦で溶けてしまう。だが、大きなものは地表まで落ちてくる。

 部品の中にある部品の中に、さらに部品がある場合がある。これらは「マトリョーシカ効果」で溶けにくい。また、人工衛星や宇宙船に使われているチタンやガラスや耐熱素材で包まれている燃料や酸素や水のタンクのような貯蔵容器は溶けにくい。

 地球上に落ちても事故を起こしにくいように、落下地点を選べる落下物もある。そのときに選ばれるのは「太洋到達不能極」と呼ばれているところで、陸地から遠い南太平洋の一地点だ。そこは南緯49度、西経123度にあり、いちばん近い陸から3000キロ近く離れている。

 制御できる人工衛星からの宇宙飛行士の帰還やロケットの発射実験などは特定の場所に落とす。しかし今回の「天宮1号」は、地点を選べない。どこに落ちてくるか分からないのだ。

 地球上の3分の2は海だ。たまに船舶が通り、上空には航空機も通るが、人口密度は低い。陸上でも、人口密度がごく低いところは多い。このため、運が良ければ「天宮1号」の大きな破片は誰もいないところに落ちて、なんの被害も生まないだろう。

 マグニチュード(M)6を超える大地震の5分の1が起きる日本だが、世界の陸地の0.28%しかない。この小さな面積に落ちてくる確率は高くはない。

 今後、空から落ちてくるものは「天宮1号」だけではない。放棄された宇宙船や使用済みの打ち上げロケットなど、地球を周回していて、いずれ地球に向かって落ちてくる巨大な塊は何万個もある。中国だけではない。日本の含めて多くの国のものがある。しかも最近は他国の人工衛星を破壊する兵器の研究が進んでいる。落ちてくるものはさらに増えそうだ。

 中国には「杞憂(きゆう)」という言葉があって日本にも入ってきた。中国古代の杞の人が天が落ちてきはしないかと毎日心配して、食事ものどを通らなかったことから出来た言葉だ。取り越し苦労のことを言う言葉だとされている。

 だが、杞憂は現代にこそふさわしい言葉なのかもしれない。

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