島村英紀『夕刊フジ』 2018年1月19日(金曜)。4面。コラムその232「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

海底火山が生み出す大津波
『夕刊フジ』公式ホームページの題は「海底火山が生み出す大津波 東京23区を1500メートルもの厚さが覆う」

 火山の災害には津波もある。海底火山が起こす津波には、地震が起こすものよりもはるかに大きいものがあることが、今年になって分かった。

 大西洋のまん中にある深海海盆で海底をボーリングした穴から、海底地滑りの巨大なあとが見つかった。これは、はるか600キロ以上も東に離れたカナリア諸島の海底火山が噴火したときのものだった。東京から姫路や盛岡よりも遠い。

 カナリア諸島はスペイン領だが、アフリカ西北のモロッコの沖100〜500キロほどにある。水深が2000メートル以上の大西洋底から突き出たいくつかの火山島からなる。気候温暖だし、氷河の影響を受けなかったので固有の生物種が数多く、ヨーロッパからの観光客が多い。

 この海底地滑りはカナリア諸島で海底火山が噴火したときに起きた。ボーリングでは、海底下140〜150メートルで得られた資料で1メートルもの厚さで海底地滑りのあとがあった。これから見ると、どう見ても、その海底地滑りの体積は900立方キロあった。地球上で他に例がないほどの「質量移動」量だ。地震はもちろん、陸上にある火山体の大規模な崩壊でもかなわない。

 海底地滑りがあれば、その量と同じ量の海水が動かされる。それゆえ、この量だけの海水を動かして、大きな津波を生んだはずだ。900立方キロという海水の量は津波でもけた違いの大きさで、東京23区を1500メートルもの厚さに覆うほどになる。

 この海底ボーリングによれば、カナリア諸島での海底噴火は何度もあったが、なみのものでも100〜150立方キロ、最大では900立方キロもの体積の海底地滑りを起こしていた。陸上の火山では大量の岩屑(かんせつ)なだれが起きて、それが海中に流れ込んでも、これほどの海底地滑りは生じない。大きな地震でも、これほど大量の海水を動かす津波は生じない。

 ことは大西洋には限らない。日本の近くや、インドネシアの近くには多くの海底火山があり、やはり海底噴火する可能性は低くはない。

 陸上の火山ならば、なんの予兆もなく噴火することはほとんどない。だが海底の火山では、陸上から監視ができないだけに、いきなり噴火することが十分にあるのだ。

 見えないところで噴火が始まって、陸上では予告なしに大津波に襲われることになるかもしれない。しかも、このカナリア諸島のときのように、なにもない海底で突然噴火して、それから海底火山ができて、やがて島にまで成長することがある。

 じつは日本史上最大の火山災害も津波によるものだった。1万5000人もの犠牲者を生んだ。

 1792年に長崎・雲仙普賢岳が山体崩壊を起こしたときに起きた。陸上の火山が山体崩壊して海に流れ込んで津波が生まれ、対岸を襲った。「島原大変、肥後迷惑」といわれる事件だ。

 対岸の肥後(いまの熊本県)にとっては、いきなり津波が上がってきた火山災害だったのである。

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