島村英紀『夕刊フジ』 2018年2月16日(金曜)。4面。コラムその236「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

台湾の地震はひとごとではない
『夕刊フジ』公式ホームページの題は「台湾の大地震はひとごとではない 南海トラフ地震と同じ海溝型、耐震基準引き上げ前の建物の多さ」

 さる6日夜、台湾で大地震が起きた。襲われたのは台湾東部の花蓮県。花蓮市では4棟の十数階建ての高層ビルが大きく傾いた。死者17名、負傷者は280名を超えた。

 震源は台湾の東方沖18キロのところで、マグニチュード(M)は6.4。100キロ以上離れた台北市や沖縄県南西部でも揺れが感じられた。

 このほかにも、ちょうど2年前の2016年に台湾南部でM6.4の地震で100人以上が死亡している。マンションが倒壊するなどしたのだ。

 じつは、台湾で起きている地震は、日本の南西部で起きる地震の兄弟である。フィリピン海プレートがユーラシアプレートに潜り込むことによってひずみが溜まっていき、やがて起きてしまう海溝型地震だ。その意味では、日本で発生が恐れられている南海トラフ地震と同じものなのである。

 この地震による現地での震度は7と報じられている。震度としては一番強いものだ。

 台湾中部では1999年の集集地震(M7.3)で死者行方不明者2500人を超える犠牲者を生むなど大きな被害が出た。この地震のあと、それまでは震度6までしかなかった震度階に7を足した。

 台湾では日本と同じ震度階を使っている。厳密に言えば、震度6までは日本でかつて使われていた0から6までの震度階で、その後に台湾独自に震度7を足したものだ。日本は大被害を生んだ福井地震後の1949年に震度7を加えた。

 日本の気象庁の震度階は1995年の阪神淡路大震災後、震度5と6にそれぞれ強弱を分けて、合計10段階になっている。台湾ではこれらの強弱はなく、8段階だ。

 一方、世界の多くの国では「国際震度階」を使っている。これは12段階で、日本の震度階とは違う。地震としての大きさを表すマグニチュードは国によらず共通だが、震度はその場所での揺れの強さを示す数値で、国によってスケールが違う。

 もともとは日本の植民地だった台湾と朝鮮に日本の震度階を「押しつけ」た歴史がある。このため、台湾と韓国は戦後も長らく、日本と同じ震度階を使っていた。

 だが韓国は2001年に日本式の震度階をやめて1から12までの12段階の国際震度階にした。国際震度階はメルカリ震度階とも言われ、1884年にイタリアの火山学者ジュゼッペ・メルカリによって考案されたもので多くの国で使われている。

 つまり、0から7までの日本と台湾の震度階は、世界では日本と台湾だけになってしまったのである。

 1999年の大地震のあと、台湾では耐震基準を引き上げた。しかし、それ以前に建てられたビルは地震に弱いままだ。今回の地震で傾いてしまったビルは、いずれも耐震基準の引き上げ前に建てられたものだった。

 大地震が起きてから建築基準法が強化されたのは日本も台湾と同じだ。日本は1995年の阪神淡路大震災で建築基準法を強化した。だが、それ以前の建物が多く残っていることは台湾と同じだ。日本にとってはひとごとではない。

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