島村英紀『夕刊フジ』 2018年3月23日(金曜)。4面。コラムその241「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

パプアニューギニアの大地震
『夕刊フジ』公式ホームページの題は「ほとんど報じられなくなったパプアニューギニアの大地震 地滑り地帯に注意」

 日本など諸外国ではほとんど報じられなくなってしまった大地震がある。

 パプアニューギニアで先月末に起きたマグニチュード(M)7.5の内陸直下型地震。2016年の熊本地震や、阪神淡路大震災(1995年)より大きい直下型地震だ。

 パプアニューギニアではオーストラリアプレートと太平洋プレートが衝突している。このため20世紀以来、M7.5クラスの大地震が13回起きた。

 今回の地震での一番の被害は、内陸部のあちこちで大規模な地滑りが起きたことで地形が変わり、多くの部落が孤立してしまったことだ。

 数百人規模の死者が出ている模様だが、首都ポートモレスビーから約560キロ離れた内陸で、治安の悪い地方で起きた地震でもあり、いまだに被害の全貌がつかめていない。現地からの情報では、2万人近くが飲料水の不足、感染症などの2次災害の恐れがあるという。

 また、各地で地滑りが川をせき止めて自然のダムが出来、その「地震湖」がやがて決壊する恐れも大きくなっている。

 私はパプアニューギニアに地震と火山の観測に訪れたことがある。この国には800もの違う言語があるので、地震計を部落に置かせて貰うのにも、何段階もの通訳を必要とした。

 つい数十年前、近くの山にときどき登っていたある村の人たちが、はるか遠くの山の間にまたたく隣の集落の火を見て、星だと思っていたという。この地球上に、自分たち以外に人間というものが暮らしているとは、よもや思ってもいなかったのであった。

 この国は気温も雨の量も農業に適していたし、川や海には魚や貝が豊富だった。つまり、自給自足で暮らせる自然の恵みの多い国なのだ。険しい地形に区切られていたこともあり、この国では隣の村と交流する必要もなかったのだ。

 こうして何世代にもわたって自給自足の暮らしを繰り返してきた結果、800もの違う言語や同じくらい多くの種類の違った文化が育ち、受け継がれてきた。地震被害の全貌をつかむのも、そもそも難しい国なのだ。

 地震による地滑りが多くて、過去たびたび起きてきた地震が、じつはいまの地形を作っているのは日本でも多い。

 たとえば新潟・山古志村(いまは長岡市の一部)は日本有数の地滑り地帯だ。M6.8の新潟県中越地震(2004年)であちこちで地滑りが起きて大被害を生んだ。この地震での最大震度は7。7を観測したのは、阪神・淡路大震災以来9年ぶり、観測史上2回目だった。

 山古志村芋川流域では842か所で崩落が起き、52か所で川が寸断された。山古志村に通じるすべての道路が遮断されたため、ほぼ全村民が取り残されてしまった。

 地震で揺すぶられると、いままでの地滑りで、崩れるギリギリの角度「安息角」で止まっているような場所では、地滑りが地震で誘発される。

 日本だけでも何十万ヶ所もある地滑り地帯は、、地震にも注意が必要なのだ。地球温暖化で気象が凶暴化して、豪雨などの気象災害が増えるだけではない。

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