島村英紀『夕刊フジ』 2018年4月20日(金曜)。4面。コラムその245「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

街に広がる危険な建築物
『夕刊フジ』公式ホームページの題は「街に広がる危険な建築物 建て替えか閉館か、迫られる決断」

 3月末に東京都が震度6強以上の地震で倒壊する恐れがあるビル名を初めて公表した。耐震診断の調査対象になったうちの3割もの249棟で倒壊の恐れがあるという。

 そのひとつは、紀伊国屋書店の新宿本店が入るビルだ。新宿駅東口から伊勢丹に向かう目抜き通りにある。1964年の完成で、建築家の前川國男が設計した。

 また、いつも人が多い「渋谷109」や中野区・中野ブロードウェイの商業ビルや、ニューオータニ(東京・千代田区)の本館に隣接するビルや、千代田区・北の丸公園にある科学技術館ビルも倒壊する危険があると発表された。

 東京都以前にも、これまでに診断結果を公表した自治体がある。南海トラフ地震に襲われる可能性が高い静岡などだ。

 静岡県は2017年1月に伊東市の「サザンクロスリゾート」ホテル棟などの名前を公表した。静岡県では公表の対象となった県内のホテルや旅館29施設のうち、震度6強以上で倒壊の危険性が「ある」または「高い」と判定されたのは16施設と半数を超えている。

 倒壊の恐れがあると自治体によって発表されたホテルや百貨店では、営業を休止したり閉店したりする動きが相次いでいる。2016年には和歌山・串本町で老舗の「浦島ハーバーホテル」が閉館したし、青森・むつ市でも「ホテルニュー薬研」が営業を断念した。

 都内のビルも今回の公表で改修や建て替えをするか、閉館するかの決断を迫られる。

 公表は悪いことではあるまい。不特定多数の人々が集まるビルが大地震で危ないかどうか、人々が知っている必要があろう。

 しかし一方で、今回の調査は限られたものについてだけだということも知っている必要がある。

 それは、「1981年以前の旧耐震基準で建てられて不特定多数の人が集まる一定規模以上の施設のほか、災害時に緊急車両が通る道路の幅の2分の1以上の高さの建築物」だけが対象になったことだ。判定の基準は自治体によって違う。たとえば宮城・仙台市では「不特定多数の者が利用する大規模建築物」として「病院、店舗、旅館では3階以上で5000平方メートル以上」「避難上配慮を要する者が利用する大規模建築物として老人ホームでは2階以上で5000平方メートル以上」「小学校と中学校では2階以上で3000平方メートル以上」「幼稚園・保育所は2階以上で1500平方メートル以上」としている。

 つまり大規模で、災害時に緊急車両が通る道路の沿道建築物だけが調査の対象になっていて、それ以外では調査や公表の対象になっていない。

 小規模のホテルや商業施設や劇場なら安全だということはもちろんない。公表していないだけだ。

 そのうえ都心部には木造住宅密集地帯が多くある。個人の住宅がほとんどのこれらは大地震で大きな被害を生むのではないかと心配されている。費用のかかる耐震診断や耐震補強の義務はないので、していない家は多い。

 地下でプレートが3つも衝突している首都圏では地震の悩みが尽きないのだ。

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