島村英紀『夕刊フジ』 2018年4月27日(金曜)。4面。コラムその246「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

都市化に翻弄される気象観測
『夕刊フジ』公式ホームページの題は「都市化に翻弄される気象観測 数十年間に20〜30%の観測点が移転」

 「暑さ日本一」を観光資源にもしていた群馬・館林(たてばやし)のアメダス観測点がこの6月に移動する。

 気温はもともと気象庁のアメダスのデータだったから、観測点が移動すれば変わってしまう可能性が大きい。

 館林のアメダスはフェンスと低木で囲われている。だが周囲に建物が密集していて、駐車場やアスファルト舗装の道路と隣接している。そのうえ地面が本来のアメダスのように芝生ではなく、防草シートで覆われている。このため高温になりやすいのではないかとの評判があった。

 移転先は館林高校のグラウンド。田畑が点在する場所だ。さて、今夏以降の「暑さ日本一」がどうなるのだろう。気温が高い日に商店街が行うセールもなくなるのだろうか。

 館林に限らず、まわりに家が建てこんでしまったり、ビルが建って風速や気温が変わってしまった気象観測点は多い。

 東京の千代田区大手町にある気象庁の観測点も都市化に押されて移転を繰り返している。地下に地下鉄が5本も通り、まわりを高いビルに囲まれてしまったからだ。

 地震計は1977年に近くの北の丸公園に移動した。感度が高い地震計は100メートル先を人が歩く振動でも感じる。移転先でも、決して十分静かではないが、「東京で観測した」地震計としての価値がある。幸い地震計は、近くに場所を移しても、雑音レベルこそ違え、観測値に変化はない。

 だが、気温や風速などの観測は「その地点」で継続しなければ、観測値が違ってしまう。

 風速や日照量の観測は高いビルに囲まれてしまったので、2007年から北の丸公園の科学技術館の屋上に移した。

 気温や湿度の観測も、2014年末に北の丸公園に移した。だが900メートル動いただけなのに問題が起きた。周囲が広い草地や木々に囲まれている公園では、夏は熱帯夜がずっと少なくなり、冬は最低気温が零下の日がずっと多くなってしまったのだ。

 気象観測は連続性が大事だ。世界的な地球温暖化が問題になっている折り、気象観測の過去からのデータが重要である。

 そのうえ、東京など都会ではヒートアイランド現象の監視も大切だ。だが、気温の観測値がずれてしまったら、これにも影響する。

 東京だけではない。全国の気象庁の観測点のうち、とくに都市の観測点は20〜30%もがこの数十年間に移転した。主な理由は政府関係の省庁の「合理化」。合同庁舎への移転のためだ。

 東京の気象庁の本庁も、あと2年で港区虎の門に移ることになっている。これは「国有財産の有効活用」という政府の方針のためだ。いま気象庁で東京の気象観測を担当している東京管区気象台は都下清瀬市に移る。

 だが北の丸公園に移した観測点はこれ以上動かしたくない。

 観測点の維持のために清瀬から1時間以上もかけて来るのは大変だ。それゆえ虎の門の新庁舎の一室に東京管区気象台の分室を作って、北の丸公園の観測点の維持にあたることになった。

 気象観測は都会化の波に翻弄されているのだ。

(写真は、高いビルに取り囲まれてしまった気象庁。中央の灰色で低い8階建てのビルが気象庁だ。1964年に作られたものだが、気象庁よりあとに建ったビルは、みな気象庁よりも高いうえに、さらに高いビルが建とうとしている。これでは風の観測や気温の観測は、とうてい無理だろう。2018年2月、国立近代美術館から=島村英紀撮影)

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