島村英紀『夕刊フジ』 2018年5月25日(金曜)。4面。コラムその249「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

月での実績あり 火星に地震計
『夕刊フジ』公式ホームページの題は「探査機「インサイト」が火星で地震計」

 さる5月5日、米国航空宇宙局(NASA)は火星探査機「インサイト」の打ち上げに成功した。

 米国の西海岸から惑星に向かう探査機が打ち上げられたのは初めてで、ロケットが飛んでいくのが早朝のロサンゼルスからよく見えた。

 この探査機の主な任務は地震計だ。このほかにも、穴を数メートル掘って火星の中から出ている熱流量を測る。

 いままで火星や金星などの惑星に探査機が着陸したが、それらは大気や気象を観測するなど、地表での調査に限られていた。

 地震計は、その惑星に地震が起きているのかどうかを調べることができる。それだけではなく、熱流量とともに、惑星の内部がどうなっているかの手がかりも得られる。

 地球外に地震計を持ち込んだのは二番目だ。最初は月に持ち込んだ。1969年に地震計を設置して、約9年の間、地震計を稼働させた。

 この地震計は、いままで地球で捉えられたことがない地震をいくつも記録して、月の内部構造についての多くの知見を集めた。

 いちばん不思議だったのは、表面から800〜1100キロという深いところで地震が起きていたことだ。この地震は約3100回も記録された。

 深さがせいぜい700キロあまりの地球で起きる地震よりずっと深い。これは月の半径の半分もあるところだ。月の4倍も大きな地球では、いちばん深い地震でも半径の8分の1ほどだから、ずっと大きい。

その地震は地球や太陽の引力による月内部のゆがみが原因で起きていた。地震の大きさはマグニチュード(M)2程度、大きな地震ではない。

 月にはプレートがない。それゆえ地球で起きるようなプレートがらみではない地震が起きていた。

 月の地震計は、このほかに、月面に隕石が衝突した「地震」も記録された。これらの隕石は9年間の観測中に500グラムから大きなものは50キログラムだった。

 月全体が揺れ動く不思議な振動がある。「秤動」(ひょうどう)と呼ばれるもので、3メートルの揺れ幅で3年という長い周期で振動を続けている。

 これは12世紀頃に月面に激突した特大級の隕石が起こしたものがいまだに続いていると考えられている。

 さて、火星に設置される地震計はなにを記録するのだろう。地球のようなプレートがあって、地球で起きるような地震を記録するのだろうか。それとも、月のように、地球にはない地震を記録するのだろうか。

 火星の気圧は地球の130分の1にすぎないが、月と違って大気がある火星は隕石が大気中で燃え尽きる可能性が大きい。他方で月の10倍もの質量があるので、隕石を引きつける引力も強く、隕石が落ちてくる確率も高い。

 月での9年の間に隕石の落下は約180回だったが、火星ではどうなのだろう。

 将来、もし人類が居住することになれば、隕石の落下はもちろん危険なものだ。今回の地震計のデータ、つまり落下の頻度や大きさは大事なデータになる。


この記事
このシリーズの一覧

島村英紀・科学論文以外の発表著作リストに戻る
島村英紀が書いた「地球と生き物の不思議な関係」へ
島村英紀が書いた「日本と日本以外」
島村英紀が書いた「もののあわれ」
本文目次に戻る
テーマ別エッセイ索引へ
「硬・軟」別エッセイ索引へ



SEO [PR] 住宅ローン フラワーギフト 必勝祈願 冷え対策 動画 無料レンタルサーバーSEO