島村英紀『夕刊フジ』 2018年6月15日(金曜)。4面。コラムその252「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

グアテマラ、雲仙普賢岳・・火砕流の恐怖
「夕刊フジ」公式ホームページの題は「グアテマラ、雲仙普賢岳…火砕流の恐怖 温度200度超え、速ければジェット機並みの速度に 」

 また火山の火砕流(かさいりゅう)による惨事が起きてしまった。中米グアテマラのフエゴ山(標高3763メートル)が噴火して、死者行方不明者が300人を超えた。死者のほとんどは焼死という。

 火砕流は火山の災害の中でも、もっとも怖いものだ。

 ちょうど27年前の1991年6月に起きた長崎・雲仙普賢岳の火砕流は一瞬にして43人の命を奪った。2014年の御嶽噴火までは日本で戦後最大の火山災害だった。

 火砕流は火口から出るものもあるし、高く吹き上がった噴煙が崩れて落ちてくることで起きるものもある。

 いずれにせよ、火砕流は火山ガスや火山灰が混合したもので、高温のうえ軽くて遠くまで届く。海も越えてしまう。温度は軽く200℃を超え、走る速度は遅くても自動車なみ、速ければジェット機なみだ。襲われたら、とても逃げられない。

 今回のフエゴ山の噴火では、英国など火山災害のない国のニュースで「溶岩が出て」多くの死者が出たと伝えられた。だが溶岩流ならば、谷筋に沿って流れるし、走って逃げれば、逃げ切ることも可能だ。しかし火砕流では逃げようがない。

 いまだに噴火が続いているハワイ島の噴火では、溶岩中の二酸化珪素が少ないので粘り気が少ない。だが、グアテマラや雲仙普賢岳は二酸化珪素が多いので粘り気がずっと大きく、火口から溶岩が流れ出さずに「溶岩ドーム」を作る。これが次の噴火で崩れると火砕流になる。

 27年前の雲仙普賢岳では火口に溶岩ドームが作られて、小規模の火砕流が起きていた。

 やがて、もっと大きな火砕流が出ることが予想されていて、「いい画」を撮るための場所に集まったメディアが、大きな火砕流の犠牲になった。悲惨だったのは、メディアにつき合わされたタクシー運転手と消防団も犠牲になったことだった。

 20世紀で世界最大の火山被害も火砕流だった。1902年に起きたカリブ海・仏領マルティニーク島の北部にある活火山プレー山(標高約1400メートル)の噴火が火砕流を起こした。県庁所在地だった人口約3万人のサン・ピエールを瞬時に全滅させてしまったのである。助かったのは地下牢に収容されていた囚人ら3人だけだった。

 火砕流はいつ出るか、分からないことが多い。グアテマラの火砕流も、なんの前兆もなかった。いきなりだったのだ。雲仙岳では山体崩壊で1792年に大災害が起きたが、その後200年以上もなにもなく、1990年に火砕流のない小噴火があっただけだった。

 だが、山頂に溶岩ドームがすでにできていて、やがて火砕流を起こすのでは、と思われている火山もある。

 たとえば北海道・樽前山は、遠くからでもシルクハットの形をした大きな溶岩ドームが見える。これが崩れたら大きな火砕流になるに違いない。

 この流れ下るところには、昔は原野が広がっていた。しかし苫小牧の市街地が西へ西へと拡大してきていて、いまは大学も新興住宅地もここに広がって来ている。

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