島村英紀『夕刊フジ』 2018年9月14日(金曜)。4面。コラムその265「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

いつ起きても不思議ではない「雨も降らないのに地滑り」
『夕刊フジ』公式ホームページの題も「いつ起きても不思議ではない…「雨も降らないのに地滑り」」

 北海道胆振(いぶり)東部地震が起きた。現地の震度は7。多数の地滑りが起きて家屋や道を押しつぶした。数万年前に支笏(しこつ)カルデラから出た火山噴出物が崩れたのだ。

 日本には火山噴出物が分布しているところが多い。それゆえ、あちこちで地滑りが起きる。

 日本史上最大の被害者数15000人を生んだ火山災害は、じつは山体崩壊という地滑りだった。これは1792年に雲仙岳で起きた。

 当時、雲仙普賢岳は噴火していたが、この火山災害は噴火による直接の災害ではなくて、普賢岳の隣にある「眉山」の山体崩壊だった。

 地震によって起こされた地滑りが眉山を崩し、それが目の前の島原湾に流れ込んで大津波を起こして、対岸でも多くの被害者を生んでしまったものだ。「島原大変肥後迷惑」といわれている。島原はいまの長崎県、肥後はいまの熊本県である。

 富士山も、地震で大規模な山体崩壊を起こしたことがある。

 この山体崩壊を起こしたものも、富士山の噴火ではなく、地震だった。2900年前のことだ。

 いまの静岡・御殿場(ごてんば)市は、この土石流が平らに堆積したところに広がっている。つまり火山は噴火がなくても崩れるほど弱いものなのだ。

 ちなみに、富士山では近年、噴火の恐れが無視できなくなってハザードマップが作られるようになったが、山体崩壊のハザードマップはまだ作られていないし、避難計画もない。富士山の山体崩壊は過去3万年間に6回起きた。

 地滑りは自動車よりも速い例が報告されている。とても逃げ切れるものではない。

 地滑りの発生件数は全国で毎年2000件以上もある。今回の北海道胆振東部地震のように内陸直下型地震でも起きているが、雨によるものが多い。2000件の9割が豪雨や台風が発生しやすい4月末から10月末に集中している。

 だが、大地震もなく、雨も降っていないのに、いきなり地滑りが起きて6人が亡くなったことがある。大分・中津市耶馬渓(やばけい)町で4月に起きた事件だ。

 崩れる前2週間の雨量はたった6ミリ。地盤が緩むほどの降雨量ではなかった。

 あまりにも不思議なので、この夏に、県が設置した有識者委員会が中間報告を出した。「数千年前の大規模な崩壊で堆積した土砂が、長年かかって浸透した地下水で地滑りを起こした」というのが結論だった。つまり、もともと危ない場所で、地滑りを起こした地下水は地表からは見えない。それゆえ発生の予測は困難なのだ。

 事件が起きた大分は火山の噴出物が堆積しているところだが、同じように火山灰などに覆われた地質は九州各地をはじめ日本全体にある。山崩れや地滑りなどの可能性がある山地災害危険地区が全国に18万カ所以上もある。なにかあったら滑り出す地滑りの「候補地」はこれほど多い。

 地滑りは、日本のあちこちで、これからもいつ起きても不思議ではない災害なのである。

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