島村英紀『夕刊フジ』 2018年10月19日(金曜)。4面。コラムその270「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

イルカ集団座礁と地震と人間の関係
「夕刊フジ」公式ホームページの題は「イルカの集団座礁と地震、人間の関係」

 この秋に開かれた地震学会で、動物と地震の関係が改めて否定された。地震学会は伝統的に動物と地震の関係に冷たいのだ。

 2011年の東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)の7日前の3月4日、茨城・鹿嶋市の海岸にイルカ54頭が集団座礁した。日本名カズハゴンドウというイルカで、カズハとは「数歯」、歯数が上下で100本近くと多いことから名づけられた。世界中の温暖な海域に棲息している。

 この研究では、日本での地震が均質に観測されるようになった1923年以降に、イルカなど鯨類が2頭以上打ち上げられた48例を分析した。

 座礁現場から半径200キロ以内で発生したマグニチュード(M)6以上の地震は429回あったが、座礁から30日以内に発生したのは2回しかなかった。集団座礁と地震発生に相関関係はないというのが、その学者の結論だった。

 しかし別の例もある。東日本の太平洋岸では、16世紀以降、イワシ(マイワシ)の豊漁期は4回あり、その時には大地震が多かった。イワシの豊漁は40〜50年続くことが多いが、それが地震活動と一致していたのだ。そして、その谷間の不漁期には大地震がなかった。

 昔の時代には大地震の前なのかどうかは分からない。だが、時代が下がって1896年の明治三陸地震(M8.2〜8.5)と1933年の昭和三陸地震(Mは8.1)の2回の大地震の前は、異常なくらいの豊漁だったことが分かっている。

 ところで、魚やイルカが振動や電気信号を感じる感覚器官はとても鋭いことがある。私たち地球物理学者が使っている最先端の観測器でも感じない小さな信号も捉えることが出来る。

 たとえば、ナマズは目が悪いが、電気信号にはとても敏感で、エサになる小動物が出す微弱な電気信号を頼りにエサをとる。感覚器官の感度は、箱根芦の湖の反対側に単3電池1個を投げ込んだだけでも感じるほどだ。

 つまり、魚もイルカも、私たちが感じない微弱な信号を捉えている可能性がある。それは小さな地震の振動かもしれないし、地震で発生する微弱な電気信号かも知れない。

 じつは伏兵がいた。クジラ類の集団座礁には海中に超音波を出す船舶の影響が指摘されていることだ。近年のすべての船が備えている超音波測深儀のほかに、漁船や近頃は小さな釣り船までが備えている魚群探知機が出している超音波は、もちろん、昔はなかったものだ。

 これらを魚やイルカが感じないわけはなく、彼らに多大な迷惑を及ぼしている可能性がある。

 カズハゴンドウは世界中の遠浅の海岸でよく集団座礁を起こすので知られている。だが、これらも人間のせいで感覚が狂ってしまったせいかもしれないのだ。

 カズハゴンドウは、おもにイカなどの頭足類を食べることが分かっているが、集団座礁のなかには大量のイワシを追って座礁したものがあるかも知れない。そして、2011年の集団座礁の原因は、イワシが大地震の前に鋭い感覚器で何かを感じて集まってきたのかも知れないのだ。

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