島村英紀『夕刊フジ』 2019年1月11日(金曜)。4面。コラムその281「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

不気味!大断層「中央構造線」が活発化------鹿児島、熊本、大分、四国北部を抜け、長野県まで達し
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 不穏な年明けだった。まだ松の内だというのに、さる3日夕、熊本で震度6弱の地震があった。昨年の漢字は「災」だった。今年こそ平穏な年を、と思っていた人々を地震が裏切った。

 地震には二種類があり、ひとつは海溝型地震、もうひとつは直下型地震である。

 前者には東日本大震災(2011年)を起こした東北地方太平洋沖地震(マグニチュード(M)9.0)がある。新年早々の熊本の地震は後者である。そのほか、阪神淡路大震災(1995年)、昨年6月の大阪北部地震、9月の北海道地震がある。

 この二種類の地震は起きるメカニズムが違う。

 海溝型地震は、日本列島を載せているプレートに海洋プレートが衝突してくることで起きる。それゆえプレートが毎年動いてくる分だけ、地震を起こすエネルギーがたまっていっている。そして岩が我慢できる限界を越えたら大地震が起きる。つまり毎年地震に近づいているのだ。起きる場所は多くの場合、太平洋岸の沖である。この地震はM8クラスか、もっと大きくなる。

 南海トラフ地震は海溝型地震のひとつで、これから起きるに違いない。いまの学問では「いつ起きるか」を知ることは不可能だが、地震に近づいていることは確かだ。

 他方、直下型地震は違う。これは日本を載せているプレートがねじれたり、ゆがんだりして起きるもので、どこに起きるのかは、いまの学問では分からない。繰り返しがあるのかどうかさえも分かっていない。日本のどこにでも起きる可能性がある。

 近年の日本の地震の歴史では、「いずれ地震が起きる」海溝型地震ばかりが注目されているうちに「どこに、いつ起きるか」分からない直下型地震が、日本のあちこちを襲ってきた。

 たとえば、海溝型地震である「東海地震」が日本中で注目されていたときに、「地震が起きない」と言われた関西地方を襲ったのが阪神淡路大震災だった。

 間の悪いことに、直下型地震は人間が住んでいるすぐ下で起きる。このため、地震の規模(M)が7クラスのわりには被害が大きくなる。M7.3の阪神淡路大震災では6400人以上の犠牲者を生んだし、2016年に2度起きた熊本地震も大きな被害を生んだ。

 ところで、熊本に起きている直下型地震は、日本で起きる直下型地震のなかでも特徴がある。それは、本震のマグニチュード(M)のわりに、余震が長く続くというものだ。本震後3年近くたっても今回のような地震が起きる。同じMだった阪神淡路大震災は2ヶ月ほどで余震が収まった。大きな違いだ。

 これは鹿児島から熊本、大分を通って四国北部を抜け、紀伊半島から長野県まで達している大断層「中央構造線」が活発化しているためだ。中央構造線は過去に何度も地震を起こしてきたことが地質学的には知られているが、日本史上にはほとんど記録がなかった。

 日本人が日本列島に住み着いてから、せいぜい1万年。だが地震は少なくとも数百万年以上続いて来た。つまり、日本人が知らない地震が全国あちこちに起きていたのだ。

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