島村英紀『夕刊フジ』 2019年1月18日(金曜)。4面。コラムその282「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

ボイジャーに託された異星人へのメッセージ
『夕刊フジ』公式ホームページの題は「そのとき地球は…「ボイジャー」に託された異星人へのメッセージ」

 1977年に打ち上げられた探査機「ボイジャー2号」が、このたび太陽圏を出て、星間空間に旅立った。いまは秒速約15キロで飛んでいる。

 太陽圏とは、太陽から噴き出す電子などの粒子「太陽風」が届く範囲のことだ。機体の周辺で11月から太陽風が観測されなくなったために、太陽圏を離れて星間空間に出たことが分かったのだ。

 だが、太陽圏の外側には「オールトの雲」というものがある。これは小天体の集まりで、ボイジャー2号がオールトの雲の内縁部に到達するのにあと300年かかる見通しで、オールトの雲から飛び出すのにあと3万年を要する。とても気の長い話なのだ。

 太陽から遠くなると、太陽電池が使えない。節電のために搭載機器の電源を順次落としていっているので寿命はあと5〜10年残っている。いま地球から約180億キロも離れたところを飛んでいるから、一回の通信には往復33時間もかかる。

 ボイジャーは、いままでに土星や天王星、それに海王星に近づいて貴重なデータを地球に送ってきた。

 だがボイジャーに積んであるものは、観測結果を地球に送ってくる装置だけではない。電池が切れてしまったあとの重要な任務もあるのだ。それは、生物が住める環境を見つけ、そこに住む高等生物と交信する試みである。

 そのため、このボイジャーにはメッセージが書かれた「ゴールデンレコード」が搭載されている。

 ゴールデンレコードとはレコード本体は金メッキされた銅製の円盤で、レコードカバーはアルミニウム製だ。

 特徴があるのは表面が超高純度ウラン238で覆われていることだ。ウラン238の半減期は45.1億年。このレコードを受け取った現代人以上の文明ならば、同位体組成を解析することで、いつごろ収録されたかが分かるようになっている。

 このレコードに収録されているものは、地球の生命や文化を伝える音や画像だ。たとえば115枚の画像。波、風、雷、鳥や鯨など動物の鳴き声などの多くの自然音。さらに様々な文化や時代の音楽。日本語を含む55種類にわたる言語のあいさつ。打ち上げ当時の米国のジミー・カーター大統領と国連事務総長クルト・バルトハイムからのメッセージも入っている。

 またピアニスト、グレン・グールドの名演奏、バッハの「平均律」録音や、日本の尺八の音も含まれている。

 じつは過去にも米国の宇宙探査機パイオニア10号と11号に、人類からのメッセージを絵で記した金属板が取り付けられていた。これはボイジャーの5年ほど前に打ち上げられたものだが、裸体の男女の絵を載せたことで批判を受けた。このため、ボイジャーでは男女のシルエットだけが収められている。

 さて、何百年か何万年かあとに、どこかの星から、なにかのメッセージが帰ってくるのだろうか。そのときに地球はどうなっているのだろう。

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