島村英紀『夕刊フジ』 2019年2月8日(金曜)。4面。コラムその285「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

アポロが月から持ち帰った「地球の石」
『夕刊フジ』公式ホームページの題は「アポロが月から持ち帰った「地球の石」と地球に飛んできた「火星の岩」 物語でも信じられない奇跡」


 アポロ14号で月面に着陸した飛行士が後生大事に持ち帰った岩石は、じつは地球のものだった。アポロ計画が行われたのは半世紀も前だが、今年になって研究論文が掲載された。

 この岩には石英や長石やジルコンが含まれている。地球ではありふれた鉱物だが、月ではほとんどない鉱物だ。そのうえ岩が生まれた温度や環境が、月ではなく地球の特徴を示していることが分析で得られたのだ。

 この岩は地球がまだ若かった約40億年前に、地表から約20キロの深さで作られた。当時の地球には小惑星が何回も衝突していたから、この岩は衝突によって地表に出て、別の衝突で地球から弾き飛ばされた。

 岩は月に激突してめり込んだが、2600万年前の小惑星の衝突で再び月面に姿を現した。

 その岩をアポロ計画の宇宙飛行士が持って帰ったものだ。なんとも数奇な運命をたどった岩なのである。

 だが、もっと数奇な例もある。火星から地球に飛んできた岩だ。

 灰色で、なんの変哲もない重さ480グラムの岩。日本の南極観測隊が南極から持ち帰って国立極地研究所にある。

 この岩は火星のマグマがゆっくり冷えていって結晶して出来た岩だ。結晶したのは約13億年前だ。当時の火星は今のように冷えきってはいなくて、噴火も地震もあった。

 ところが1000万年前に、巨大な小惑星が火星に落ちた。大変な衝撃で、火星の表面はおろか、深いところまでの岩を壮大に弾き飛ばした。

 あまりに激しく飛ばされたために、引力圏を脱して宇宙へ飛び出したものもあった。

 アポロ計画で持ち帰った岩が地球から月に飛び出したときには、月はいまの3分の1の距離にあった。月はいまの3倍もの大きさだったから、今よりは月に衝突しやすかった。だが火星から地球を見ても点にしか見えない。その地球に落ちたのは奇跡と言うしかない。

 飛び出して500万年ほどたったとき、岩は地球に落ちた。大気との摩擦で壮大な火の玉になっていたに違いない。人類が誕生する前だから、この流れ星を見ていた人はいない。

 もし、この岩が地球表面の3分の2を占める海に落ちていたら、発見されたはずはない。また、陸に落ちても、特徴のない岩だから、宇宙から落ちてきた岩とは知られなかった可能性が高い。

 しかし、落ちたところは南極の氷河の上だった。南極の氷河は降り積もった雪が固まったものだ。南極は椀を伏せたような形をしているので、氷河はゆっくりと流れ下る。そして、隕石は氷河のベルトコンベアに乗ったまま、やまと山脈という終点に運ばれ、白い氷の上にある隕石として日本隊に拾われたのだ。小説や物語では到底信じて貰えない偶然だろう。

 以前に火星に行った探査機が大気を調べて送ってきた。この岩に含まれている大気の成分が、細かいところまでこの探査機のデータと一致したので火星から来たと断定されたのだ。

 人類はまだ、探査機で火星の岩を取ってきたことはない。この岩は貴重な資料なのである。


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