島村英紀『夕刊フジ』 2019年2月22日(金曜)。4面。コラムその287「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

磁北極の移動加速、下がり続ける地磁気 生物脅かす地球深部の異変!!
『夕刊フジ』公式ホームページの題も同じ

 地球に不思議なことが起きている。最近、磁北極の移動が加速していることだ。

 磁北極がどこへ行こうと関係がない、と思っている人は多いだろう。だが磁極の位置を使う「世界磁気モデル」は、スマホや航海には不可欠なものであるほか、軍用ナビゲーションにも使われている。

 このままではモデルが実際とずれてしまう。このため、いままでは5年ごとに更新されて来たが、1年前倒しして、この2月に更新された。

 地球はひとつの大きな磁石になっている。北極の近くと南極の近くに極がある。つまり地球の中に長い棒磁石が埋まっているのと同じ磁界を作っている。

 地球の磁石は、ただの磁石ではなくて電磁石である。普通の電磁石は巻いた電線の中に電気を流して磁石にする。しかし地球では、溶けた鉄の球の中に電気が流れて電磁石になっているのだ。

 この溶けた球は、地表から2900キロ下にある。地球の半径は6370キロあるから、球は半径で約3500キロ、つまり月の倍もある大きなものだ。この中を強い電流が流れていて、それが電磁石を作っているのだ。

 地球の磁石は、もともと地球の自転軸と少しずれている。北の極は磁北極といわれ、地球の回転軸である北極からは、カナダ側にずれている。

 オーロラは地球の出す磁力線に沿って宇宙から飛び込んできた粒子が光るものだから、磁北極のあるカナダやアラスカでよく見える。逆にヨーロッパでは同じ緯度でも、それほどは見えない。

 そもそも正確な磁北極を初めて現地踏査で確認したのは1831 年だった。磁北極の位置はそれ以来、ずっとカナダにあった。カナダの北極側にある島のあいだを微妙に動きながら、カナダにとどまっていた。

 だが、21世紀に入ってカナダを飛び出して北に向かって急に動き出した。いまは年間に55キロといういままでにない速さで動いている。

 この勢いだと1〜2年のうちには北極の近くまで行ってしまう。さらにシベリアまで行くかも知れない。なぜ、急に動き出したのか、どこまで行くのかは、誰も知らない。

 ところで、地球の磁場は、現在までの180年間で10パーセントほど減っている。これも原因は分からない。地磁気を正確に測れるようになってから、地磁気は一途に下がり続けているのだ。

 地磁気が弱くなって、ついになくなってしまうと、地球に降り注ぐ宇宙線やX線が増える。これは人間に限らず、地球上の生物にとって、とても危険なことだ。

 かつて月に行った米国のアポロ計画に参加した宇宙飛行士が、心臓や血管の病気での死亡率が高いという研究があった。これは地球の磁場が作るバリアの外に出たので、強い宇宙線に曝(さら)されたからだ。

 ちなみに日本人宇宙飛行士が行く国際宇宙ステーションは地球の半径の1/16のところにすぎないから、バリアの中だ。

 地球上の生物は、地磁気が作ってくれるバリアの中にいるから安全なのだ。

 地球の深部に何が起きているのだろう。

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