島村英紀『夕刊フジ』 2019年5月17日(金曜)。4面。コラムその297「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

火星にも地震
『夕刊フジ』公式ホームページの題は「火星でも地震を記録 各地で「地面の振動」捉える地震計」

 火星で初めての地震が記録されたらしい。昨年末に火星に設置した地震計が探知したものだ。

 この地震計は「SEIS」。先月にかすかな揺れを記録した。これは地中で発生した地震の音だったと見られる。さらに小さく発生源がはっきりしない揺れも3月に1回、4月に2回記録した。

 火星は地球と違って中まで冷え切ってしまっているので地球のようなプレート運動はない。それゆえ、私たちを悩ませる「地球型」の地震は起きない。地震は火星が冷却して収縮することで発生したものだと考えられている。

 今回の信号は小さくかすかだったから、まだ内部構造の解明には至っていない。これから観測例が増えると、火星内部の構造や、火星が形成された過程を探る手がかりになるだろう。

 この地震計は、米航空宇宙局(NASA)が火星に着陸させた無人探査機「インサイト」が設置したものだ。地震計を運用しているのはフランス国立宇宙センター(CNES)である。

 地震計は惑星探査に有用なものだ。他の測器と違って、遠くで起きた事件でも分かるからだ。

 地球の外に地震計を持ち込んだのは1969〜1977年にかけてアポロ計画で月面に5台の地震計を設置して以来だ。この地震計は約9年間動いて、数千回の地震を観測した。やはりプレート運動がない月でも深部に地震が起きることや、内部構造の解明に役立った。地球の地震と違って、何十分も揺れ続けることも分かった。

 今回観測された火星の地震は、この時の月の地震と似ていたという。

 そもそも地震計は、人間が100メートル先を歩いていても感じるほどの高い感度を持っている。また、四六時中動いている。日本だけでも数千台、世界中では何万台も動いているのだ。

 このために、たとえば2001年に米国で起きた同時多発テロ事件でニューヨークの貿易センタービルに旅客機が突っ込んでビルが崩壊したときにも、30キロあまり離れたところにあったコロンビア大学の地震計が時刻と大きさを正確に捉えていた。この事件は地震にすればマグニチュード(M)2.3の揺れだった。

 日本でも、かつて1985年に日航のジャンボジェット機が群馬県の山に落ちたときは、いつ落ちたのかを警察が知るために、地震計の記録の提供を求められた。

 このほか1967年に北海道・千歳の自衛隊の基地での燃料タンクの爆発や、長野県や東京・墨田区などで起きた花火工場の爆発、大規模な雪崩、各地の地滑り。これらの事件はいずれも、近くの地震計に捉えられていた。

 つまり、日本全国に置いてあって、気象庁や大学などが日夜動かしている地震計は、高感度の「地面の振動」記録計でもあるのだ。この記録をとくに警察が重宝しているらしい。

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