島村英紀『夕刊フジ』 2013年5月24日(金曜)。5面。コラムその3:「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」

月でも起こる「深発地震」の謎

 月に地震計が置かれたことがある。1960年代からはじまったアポロ計画のときで、その後、のべ約9年は動いていたが、いまは止まってしまった。

 しかし、その間に地球にはない地震をいろいろ記録した。いや、「地震」ではなく「月震」と言われているものだ。なお、月震とは英 語のムーンクエイクの訳語である。アースクエイク(地震)をもじって名づけられた。

 最大のマグニチュードは約4。地球ではたいした地震ではない。

 月に空気がないために頻繁に隕石の衝突が起きていた。だが、それ以上に不思議な、月にしかない地震が起きていたのだ。

 それは、はじめ小さかった揺れが数十分もかかってだんだん大きくなっていくもので、地球の地震とは大いにちがう。そして、揺れは数時間も続いたのだ。

 しかも、震源のほとんどは地球に向いている側だけにあった。また太陽の向きと地震の起きかたも関係していた。

 つまり月の地震は地球や太陽の引力で起きていることがわかったのである。

 もうひとつちがうことは、地震が起きる深さだった。ほとんどの地震は、深さが900から1100キロメートルという深いところで起きている。月の半径の半分を超えるくらいのところだ。

 ちなみに地球の地震は、地球の半径の1/10くらいまでしか起きない。

 世界でいちばん深い地震はロシア極東のウラジオストーク近辺の地下700キロメートル付近で起きる。ここは、日本の東の沖にある日本海溝から地下へ潜り込んでいった太平洋プレートの終着点なのである。

 つまり、地球の地震はプレートの中とすぐ周辺でしか起きない。世界でもプレートがたまたま深くまで潜り込んでいるところだけ、こういった深い「深発地震」が起きる。

 深発地震が起きるのは、日本海の深部のほか、南太平洋のトンガ・ケルマデック地域や、サイパン・グアム島の地下や、南アメリカの太平洋岸の地下など、ごく限られたところだけである。

 ウラジオストーク近辺の地震はときにマグニチュード7を超える大きなものも起きる。

 しかし、阪神淡路大震災なみのマグニチュード7・3の地震でも真上のロシアでは被害はなかった。じつは、震度が大きいのは真上ではなくて、太平洋プレートに沿って地震波が伝わってくる東日本の太平洋岸なのだ。

 このときは東日本で震度3になった。しかし同じ東日本でも、日本海岸ではむしろ震源に近いのに、太平洋プレートから遠いために、震度は0だった。

 1994年にボリビアの地下630キロメートルで起きた深発地震は、隣国ペルーで10人もの犠牲者を生んだ。深発地震は自国ではなくて隣国に被害を出すことがある。とんだとばっちりである。

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