島村英紀『夕刊フジ』 2019年6月28日(金曜)。4面。コラムその303「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

中国・四川省でまた大地震-------”火薬庫”の上で暮らす人々
『夕刊フジ』公式ホームページの題は「中国・四川省でまた大地震…日本も!?“火薬庫”の上で暮らす人々」

 18日夜に山形県沖で起きたマグニチュード(M)6.8の地震では新潟・村上市で震度6強を記録した。幸い死者は出なかった。

 この地震の報道の陰に隠れてしまったが、中国・四川省でも先週17日に大きな地震があって、報じられただけで13人の死者と140人以上の負傷者を生んだ。被災者8万人以上が27ヶ所の大型の臨時避難所に収容されている。全壊家屋は4万6千棟、半壊家屋は11万棟以上に上った。

 ところでこの地震の名前は「四川長寧M6.0地震」と決められた。これは2015年から施行されている「地震名称確定規則」によるものだ。この規則では、地震の正式名称は「震災発生の日時+地名+M+地震」で、略称は「地名+M+地震」になる。地名は地震の震源の場所だが、震源が県クラスの行政区にある場合には、省(省、自治区、直轄市、特別行政区)と県の二つのクラスの地名をつないで用いることになっている。

 つまり、この地震は四川省長寧県で起きたから、正式名称は「2019年6月17日四川長寧M6.0地震」で、略称は「四川長寧M6.0地震」になる。震源地とMと年月日が入っているので、日本の地震の名前よりはずっと分かりやすい。地震学は万国共通なので西暦なのもありがたい。

 ところで中国南部では2008年にも「四川大地震」(M7.9)で9万人以上の死者を出したことがある。

 パキスタンでも2013年のM7.7の地震で数百人以上の死者、また2005年にもM7.6の地震で、確認された死者だけでも9万5000人以上という大惨事を生んでいる。

 このほか、ネパールにも2015年にM7.8の地震が起きて5000人以上が死亡した。ネパールでは1934年にもM8.4の地震で1万人以上、1988年にもM6.6の地震で1500人近くが死亡している。

 中国南部をはじめ、パキスタンやネパールで起きてきた地震は、みな兄弟分の地震である。それは、これらの地震すべては、インド亜大陸というプレートがユーラシアプレートを南から押してきているために起きているものだからだ。

 インド亜大陸ははるか南極海から赤道を越えて北上してきて、約1000万年あまり前にユーラシアプレートと衝突した。しかし、それだけではすまず、いまでも北上を続けようとしてユーラシアプレートと押し合っている。

 このためプレートの端がまくれ上がってしまって「世界の屋根」ヒマラヤやチベット高地を作った。ヒマラヤはいまでも毎年1センチずつ高くなり続けている。

 インド亜大陸が動こうとしている限り、この種の地震はインドの北にあるこれらの国々で続く。これらの国々は、また、大地震に襲われる運命にある。つまり火薬庫の上で暮らしているようなものだ。

 他人の国のことは言えまい。プレートが4つも衝突し、わかっているだけでも活断層が2000もある日本に住んでいる私たちもまた、火薬庫の上で暮らしているのである。

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