島村英紀『夕刊フジ』 2014年1月10日(金曜)。5面。コラムその34 「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」

「緊急地震速報」と「予知」の違い
「夕刊フジ」公式ホームページでの題は「いちばん危険な地域に間にあわない”緊急地震速報”の限界」

 地震の一般向けの本を書く前にアンケートをとったことがある。私が驚いたのは「緊急地震速報が数秒前ではなくてせめて数分前になるように改良して貰えないでしょうか」という要望だった。

 気象庁は2007年から「緊急地震速報」を出している。誤解している向きもあるが、これは地震予知ではない。だが「東海地震」を予知する専門の部局まで擁する気象庁が出す警報ゆえ「地震予知の一種なのだろうからもっと前に」というのが庶民のはかない望みなのであろう。

 この速報の原理は単純なものだ。全国に置いてある地震計のどこかで強い揺れを感じたら震源を計算し、まだ揺れが届いていない場所に警報を送るという仕組みだ。逆立ちしても地震が起きる前に通報できるはずがない。

 遠くで雷が光ってから、しばらくして音が聞こえてくるのと同じ原理である。だが音が空気中を伝わる速さは秒速330メートルあまり。しかし地震の揺れは秒速3〜8キロとずっと早いから、雷ほど時間的余裕がない。

 それゆえ緊急地震速報の最大の問題は、警報を聞いてから地震が来るまでにほとんど時間がないことだ。たとえば恐れられている南海トラフ地震が起きたときに、横浜で10秒ほど、東京でも10数秒しかない。しかも遠くなるほど地震の揺れも小さくなるから、20秒以上になるところで知らせてくれても警報の意味がなくなってしまう。

 走っている新幹線はこの時間では安全に停止するかどうかは分からない。工場でも大きな機械を短時間で止めることは不可能だ。手術中の病院でも、これだけの時間では手術を止めることはできないだろう。

 そのほか、じつは根本的な弱点がある。日本に起きる二種類の地震、海溝型地震と直下型地震のどちらにも対応しにくい仕組みになっていることだ。

 海溝型地震は海底で起きる地震だから、震源から一番近い地震計である沿岸の地震計に揺れが到達して計算をはじめたときには、すでに広範囲に揺れが襲っている。東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)のときも東北地方の人々がP波の強い揺れに遭ってから、ようやく緊急地震速報が出た。

 また、直下型地震でも震源は地下にあり、いちばん近い地震計が地上にあるために、肝心の震源近くで揺れが強いところでは緊急地震速報が間に合わない。昨年の11月から続いている首都圏の直下型地震でも緊急地震速報が出なかったり、間に合わないことが多かったのはこのためだ。

 海溝型地震でも直下型地震でも、いちばん揺れが大きくて危険な地域には緊急地震速報は間にあわない。気象庁は速報の限界をきちんと広報すべきなのである。

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