島村英紀『夕刊フジ』 2020年7月31日(金曜)。4面。コラムその358「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

人口密集地帯に落ちた国内53番目の隕石
『夕刊フジ』公式ホームページの題は「もし当たったら即死…人口密集地帯に落ちた国内53番目の隕石」

 7月に関東地方の広い範囲で火球が見えた。満月よりも明るかったという証言もある。火球は強い光を放って移動した。

 人口の多いところだから、多くの人が寝静まっている午前2時半でも起きている人が多く、神奈川・平塚で動画を撮った人もいた。

 火球と同時に、千葉・習志野で大きな音がした。住民が驚いて外に出たところ、子供のこぶし大の石がマンション2階の廊下に転がっていた。

 その後、中庭でもう一つの破片が見つかった。石の大きさは4.5センチと5センチ。重さは63グラムと70グラム。破片同士がかみ合うため、元々は一つの隕石(いんせき)だったと見られる。今回見つかった破片のほかに、複数の破片が広範囲に散らばっているかもしれない。

 これらの破片は、放射性物質の特徴から、落下して間もない隕石であることが判明した。

 国内で見つかった隕石はこれで53番目。2018年に愛知・小牧市で発見された「小牧隕石」以来だ。小牧隕石は民家の屋根に落ちて穴を開けた。大きさは10センチ、重さは550グラムと今回より大きかった。

 もちろん、これらの隕石が当たったら即死だ。

 インドでは2016年に南部のタミルナド州の大学構内で大きな爆発があり、深さ約60センチのクレーターが出来た。大学のスクールバス運転手1人が死亡、3人が負傷した。州の首相は落下したのは隕石だったと発表し、州政府は「隕石が原因」として家族に弔慰金を支給した。

 しかし、後の専門家の調査で、隕石ではないのではないか、ということになった。青みがかった色は宇宙からの物体の特徴には一致しないし、隕石は地面に落下した時点で発火したり爆発したりはしないというのが根拠だ。

 人が死んだ最古の信頼できる記録は1888年、現在のイラク北部の都市スレイマニヤ付近に落下した隕石の記録だ。これはオスマン帝国の公的文書に記録されている。

 人は死ななかったが、最近の大きな隕石は2013年にロシア西南部の町チェリャビンスクに隕石が落ちたものだ。隕石は17メートルの大きさだった。衝撃波で東京都の面積の7倍もの広い範囲で4000棟以上の建物が壊れ、1500人もが重軽傷を負った。

 いままで地球に落ちてきた隕石は3万個を超える。2000年から2013年の間に26個の大きな隕石が落ちてきた。これら大きな隕石が地球に衝突したときのエネルギーは、TNT火薬にしてどれも1000トンから60万トンの威力があった。都市を直撃したら大変なことになったに違いない。

 最近の研究では、巨大な隕石が落ちてくる頻度は、これまで考えられていたよりもずっと高いことが分かってきている。

 今回の隕石は首都圏の人口稠密地帯だった。幸い人は死ななくて隕石も小さかったが、これは偶然の幸運のおかげだ。

 しかし、今後はわからない。この幸運がいつまで続くのか、そのうちに人が亡くなったり、どこかの都市に大きな隕石が落ちて悲劇的な大惨事になってしまうかどうかは分からないのである。

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