島村英紀『夕刊フジ』 2014年1月31日(金曜)。5面。コラムその37 「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」

地震と漁獲量の不思議な関係
『夕刊フジ』公式ホームページでの副題は「起きた数と量、グラフが示す”似た形”」

 さる1月に3回、鳥取県や新潟県の日本海沿岸で巨大なイカが発見された。ダイオウイカという無脊椎動物としては世界最大級の生物である。

 欧州では長さが18メートルのものが見つかったこともあり、鳥取のイカも、失われていた「触腕」といういちばん長い足を入れれば長さが8メートルだったと推定されている。

 ダイオウイカは深海に住むため生態も分からず、太平洋や大西洋など各地で死んだものがわずかに見つかるだけだった。鳥取で底引き網にかかったものは、発見当時は生きていたというから希有の例だった。

 昔から、魚と地震との関係についての言い伝えがある。このイカも話題になった。大地震が起きる海底で地殻変動など何かの変化があったことを魚が感じているのではないかということだ。

 岩手県の三陸地方には、イワシ(マイワシ)がよく獲れるときには大地震があるという言い伝えがある。1896年の明治三陸津波地震と1933年の三陸沖地震の二回の大地震の前は異常なくらいの豊漁だった。

 漁獲量と地震の関係を最初に指摘したのは物理学者の寺田寅彦である。伊豆半島・伊東沖の群発地震の毎日の数のグラフと、近くで捕れたアジやメジ(マグロの仲間)の漁獲量のグラフがよく似た形をしていることを発見した。

 近年、寺田の追試をした研究がある。1974年からの16年間に、相模湾一帯に分布している定置網27箇所の漁獲量のデータ全部を調べ上げたのであ る。この期間には伊豆大島の島民全部が島外に避難した1986年11-12月の噴火があった。伊東沖では1989年5月に始まった群発地震がどんどん盛んになって7月には海底噴火して手石海丘を作った。こうした伊東沖の群発地震はこの期間に11回もあった。

 寺田が示したのと同じような例もあった。たとえば小田原と真鶴の間にある定置網では、伊東沖の群発地震とアジの漁獲量のグラフがよく並行していた。また、熱海のすぐ南にある定置網でのアジの漁獲量は、1986年の伊豆大島の噴火の前後に起きた地震の数と並行しているように見える。これらのグラフを見せられれば、誰でも地震と漁獲量が関係があると思うほどである。

 しかし、見事なグラフばかりではなかった。これらの定置網の近くにはいくつもの別の定置網があったのに、それらの漁獲量は、地震の数とは関係が見られなかった。しかもその中には、地震の震源にもっと近い定置網もいくつもあったのだ。

 ナゾはまだ解けない。だがなぜ、こんなことが起きるのだろう。

 魚たちは地震から逃げようとして定置網にかかってしまったのか。それとも、好奇心から地震に近づいてきて網にかかってしまったのだろうか。

 残念ながら、現在の生物学は魚たちの脳の中の記憶を読み出すまでには進んでいないのである。

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