島村英紀『夕刊フジ』 2020年11月20日(金曜)。4面。コラムその374「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

小惑星が地球すれすれ通過 観測史上最接近
『夕刊フジ』公式ホームページの題は小惑星が地球すれすれ通過 観測史上最接近、2068年に300メートル級衝突の可能性

  いままで地球に落ちてきた小惑星や隕石(いんせき)は3万個を超える。

 大きければ地上に落ちて巨大なクレーターを作る。いちばん新しいクレーターは直径1キロ。79万年前、ラオス南部に落ちた小惑星が作った。吹き飛んだ破片や粉塵(ふんじん)で地球全体が覆われるほどの規模だった。


 この規模の小惑星の衝突は100万から500万年に1度の頻度だとされている。人間が生きている間ならば大騒ぎだ。


 しかし、もっと小さい隕石ならば頻度はずっと高い。2013年までの13年間に26個の10メートル級以上の隕石が落ちてきた。これら大きめの隕石が落ちてくる頻度は、これまで考えられていたよりもずっと高いことが分かってきている。


 2013年にロシア西南部に落ちた隕石は17メートルの大きさだったが、東京都の面積の7倍もの広い範囲で4000棟以上の建物が壊れ、1500人もが負傷した。


 もっと小さい隕石も落ちてくる。小さければ大気との摩擦で燃え尽きるので安心、とは限らない。小さくても割れて落ちた例は多い。この7月に千葉・習志野(ならしの)に落ちた隕石は人のこぶし大だったが、いくつかに割れて落ちたことが分かっている。もちろん、当たったら即死だ。


 この8月に米国航空宇宙局(NASA)は5メートル前後の中型車くらいの小惑星が秒速約12キロで地球をかすめていたと発表した。「2020QG」と名付けられた小惑星で、もっとも近づいた距離は地球の半径の半分の3千キロだった。地球にぶつからなかった小惑星としては観測史上最も近づいたものだ。多くの通信衛星が周回する高度35000キロの静止軌道よりはるかに低い高度だった。


 8月の「2020QG」の約一ヶ月後に地球をかすめた小惑星「2020SW」はずっと大きく、バスほどの大きさだった。これは地球接近のわずか6日前に発見された。幸い地球には衝突せず、太平洋南東部の上空を通過した。やはり静止通信衛星より近かった。


 この小惑星はわずか6日前、そして8月の小惑星は誰にも発見されないまま地球に記録的な接近をしたのだ。発見されたのは通過した後だった。


 だが、もっと大きな小惑星が2068年に地球に衝突する危険が示された。この秋に開かれた米国天文学会のことだ。


 直径は約300メートルあまりの「アポフィス」。これは2029年に最初に地球に接近し、再度2068年に接近する。


 2029年には地球に衝突することはまずない。しかし「ヤルコフスキー効果」が軌道を変化させる。太陽光から来て小惑星から出る熱エネルギーが、小惑星の表面が暖かくなるのも冷却するのにも時間がかかることによって時間遅れが生まれる。この時間遅れによるアンバランスが軌道を変化させるのだ。


 アポフィスにもヤルコフスキー効果が起きていて、重力だけによる軌道から毎年170メートルずつ、ズレていっている。


 この効果で2068年に地球に衝突する可能性が高まっている。随分先の話だが、地球に向かって落ちてくる大きな小惑星を回避する方法が、その頃にはできているだろうか。


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