島村英紀『夕刊フジ』 2014年2月14日(金曜)。5面。コラムその39 「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」

活断層突っ切る新丹那トンネル
『夕刊フジ』公式ホームページでの副題は「次の地震が早まる可能性も…」

 東海道新幹線の新丹那トンネルは長さ7959メートル。外が見えないから居眠りをしている人が多い。

 しかし地震学者である私は心中穏やかではない。このトンネルは列車が時速270キロもの速さで活断層を突っ切って走っているという、世界でもまれな場所だからである。

 トンネルは熱海と三島の間にある。50mほど離れたところに東海道線の丹那トンネルがあり、こちらは7804m。1934年(昭和9年)に開通した。

 この丹那トンネルの工事はたいへんな難工事だった。何度もの落盤事故で67名もが犠牲になったほか、7年の予定だった工事が16年もかかった。工事中、箱根芦ノ湖の水量の3倍にも達した水が出た。トンネルの上にある盆地に渇水と不作をもたらした。農民の一揆も起きた。

 これほどの難工事だった理由は火山地帯を通る活断層、丹那断層を掘り抜いたことにある。

 それだけではない。この活断層は工事中の1930年にマグニチュード(M)7.3の北伊豆地震も起こした。地震は阪神淡路大震災なみの直下型地震で、掘削中のトンネルが2.7メートルも左右に食い違ってしまった。

 このためトンネルは掘り直された。現場付近を通るところでS字型に曲がっている。注意深く列車に乗っていれば分かる。

 当時は知られていなかったが、丹那断層は「A級の活断層」である。A級とは、活断層のなかでももっとも活動度が高いものをいう。

 この活断層は過去に数百回の地震を起こしながら、地表の食い違いを蓄積してきている。だから、この辺の山も谷も、すでに1キロも南北に食い違っている。北伊豆地震はその数百回のうちの1回だったのだ。

 新幹線の新丹那トンネルは1941年に弾丸列車計画として掘りはじめられていたもので、1959年に工事が再開され1964年に完成した。

 この丹那断層の学術調査は1980年代に行われ、活断層が地震を起こす間隔が700年から1000年だと分かった。

 つまり丹那トンネルも新丹那トンネルも、ここに活断層があることを知らないで作ったのである。

 丹那断層は日本の活断層の中では繰り返しが短くて過去もよくわかっているほうだ。このためこの活断層は相対的には安全なところとされている。だが次の地震が予想よりも早まるかもしれない。げんに東日本大震災(2011年)後に、付近の微小な地震は、それ以前に比べて70倍にも増えている。

 次の地震のときには丹那トンネルも新丹那トンネルも2〜3メートル食い違うに違いない。

 2012年に起きた中央高速道笹子トンネルの天井板落下事故も、活断層を掘り抜いたところだったので岩がもろかったという説もある。

 活断層は日本中にあるし、まだ分かっていない活断層も多い。伊豆に限らず、日本列島のトンネルの多くは不安定なところにあると言うべきなのである。

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