島村英紀『夕刊フジ』 2021年4月2日(金曜)。4面。コラムその391。「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」
前兆あったアイスランド首都で800年ぶり噴火
『夕刊フジ』公式ホームページの題は「前兆あったアイスランド首都で800年ぶり噴火 小規模な地震は5万回以上観測」
アイスランドで噴火が起きた。南西部のレイキャネス半島で3月19日夜、火山が噴火した。とは言っても日本と同じく地震と火山の国だから珍しくもない。
だが、今回の噴火は特別だった。首都レイキャビックと首都の空港の間で起きた。空港から数キロしか離れていなかったからだ。
噴火したのはファグラダルスフィヤル山で、クリースビーク火山帯の一部だ。この火山帯は、このところ活動しておらず、噴火が起きたレイキャネス半島で最後に噴火が発生したのは800年前の1240年だった。当時は地震データの記録もなく、火山が噴火する前にどのような現象が起こるのかは知られていない。
前兆はあった。2020年12月に地震活動が始まり、先月24日にマグニチュード(M)5.7の地震が観測された。これよりも小規模な地震が5万回以上も観測され、1991年にデジタル記録が始まってから最多となった。
首都にあるアイスランド気象庁の地震学者からのメールでは「人生でいちばんたくさん地震を感じた」というほどだった。これら多くの地震はマグマの通り道を作るための地震活動に違いないという。日本の気象庁は6000人いるのに、アイスランド気象庁は30人。てんてこ舞いをしているに違いない。
噴火は火山灰を出さず、割れ目から溶岩を流出させる様式の噴火なので 2010年に起きた同国中部のエイヤフィヤトラヨークトル山の噴火のように全欧州の航空機が止まって大きな影響を及ぼすことはない。そのときの噴火では上空の偏西風に乗って火山灰が広く欧州を覆い、6万もの航空便が止まって影響は全世界に及んだ。最大規模の空域閉鎖だった。
今回の噴火での溶岩はハワイの火山から出ているような流れやすいものだった。溶岩の中の二酸化珪素の含有量が50%ほどならば粘り気が低い。ハワイの火山からの溶岩流のように、オレンジ色のさらさらした川のような流れになる。
他方、二酸化珪素の含有量が高くて粘り気が高ければ、溶岩が流れ出すことはなく、火口に溶岩が盛り上る北海道・昭和新山や長崎・雲仙普賢岳のような溶岩円頂丘(溶岩ドーム)が作られる。
また、この地域は比較的雪氷に覆われていないために爆発的な噴火を起こすには水の量が十分ではない。火山灰が出なかった理由のひとつだ。
今回の噴火は、幸い、溶岩原で人が住んでいなかったために被害は報告されていない。
しかし心配は残る。地質学的な研究では半島で新たな火山活動のサイクルが始まったときには、1つではなく続いて複数の噴火が起こることだ。
その他に火口から出る火山ガスの危険もある。
同国は観光で食べている。流れる溶岩見たさに多くの観光客が火山のまわりに集まっているが、火山ガスの危険から立入禁止にしようかどうかと当局は悩んでいる。
伊豆大島も火山が観光の目玉だ。かつて1986年に噴火が起きたとき、立ち入り禁止区域の解除を求めて商店が町役場に陳情に訪れたほどだ。
噴火で観光客が増えると喜んだ地元の危うさは観光立国共通の悩みなのだ。
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