島村英紀『夕刊フジ』 2021年8月27日(金曜)。4面。コラムその410「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

海底噴火で生まれた新しい島の行方

『夕刊フジ』公式ホームページの題は「何度目かの正直!? 福徳岡ノ場の海底噴火で生まれた“新しい島”の行方」

 福徳岡ノ場(ふくとくおかのば)では8月の初めから海底噴火が始まった。東京から南へ約1300キロメートルのところだ。活発な噴火活動が続いて直径約1キロメートルの馬蹄形の新島が確認された。また、噴火から出た軽石などが北西方向に約60キロメートル先まで流れているのが認められた。

 今度の福徳岡ノ場の噴火は、噴火が再開したと報じられている西の島新島の南にある。両方とも東日本火山帯に属する。

 東日本火山帯は太平洋プレートがフィリピン海プレートに潜り込んでいることで火山のマグマが生まれている。東日本火山帯は東日本を縦断している火山帯だ。

 富士山や浅間山を境に、北は太平洋プレートが北米プレートの下に潜り込んでいて、東北日本から北海道、さらには千島列島にまで続いている長大な火山帯だ。

 福徳岡ノ場のもっと北には明神礁(みょうじんしょう)があり、噴火がときどき起きる。ここも東日本火山帯に属する。

 明神礁では、かつて悲劇が起きた。1952年のことだ。海上保安庁の観測船『第五海洋』が海底火山のいきなりの噴火で吹き飛ばされた。

 その後の捜索では船体の破片や遺留品しか見つからなかった。生存者も目撃者も存在しないために真相は不明だが、31名全員が船ごと遭難したと考えられる。

 伊豆半島沖で1989年に起きた噴火、手石(ていし)海丘の噴火でも海上保安庁の観測船『拓洋(たくよう)』が危ういところだった。

 陸上の火山ならば傾斜計やGPS装置も設置できるから山体膨張を見ることができる。遠くから表面温度も測れる。地磁気の測定も可能だ。だが海底火山では観測の手段が限られる。山体膨張も、観測船が真上に行って測深儀(そくしんぎ)を使って水深を測るしかない。『拓洋』も水深の調査をしていた。『第五海洋』も同様の調査をしていたに違いない。

 『拓洋』の事件をきっかけに、海上保安庁は無人観測艇「まんぼう」を開発した。これなら人的被害は避けられる。「まんぼう」は無人艇といっても人が乗れるほど大きい。長さ10メートル、6トン。測深儀や水深水温測定装置、塩分計、採水器などを備えていて、明神礁の調査など、海底火山の調査を行っている。

 福徳岡ノ場では1904〜1905年に噴火が起きて火山島ができたが、海の浸食で消えた。1914年の噴火でも新島ができたが、これも消えた。海の浸食はそれほど強いのだ。

 1986年の噴火では長さ600メートル、高さ15メートルの新島が生まれたが、約2ヶ月で、やはり浸食で消えた。2010年にも海底噴火があったが、噴火の規模は小さく新島は現れなかった。

 福徳岡ノ場は日本の領海内にある。このため、新島が現れたときには自動的に日本領になる。

 何度目かの正直。今度の新島は1986年の新島よりも大きい。ある火山学者は「マグマが海面に出てきた西の島新島とちがって、新島の大部分は軽石や火山灰が堆積したものだから海に消える可能性が高い」と言う。だが、日本に新しい島が増えるかどうか、大いに関心が集まっているのだ。

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