島村英紀『夕刊フジ』 2021年9月3日(金曜)。4面。コラムその411「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

アフリカ大陸分裂の証拠「地溝帯」

『夕刊フジ』公式ホームページの題は「アフリカ大陸分裂の証拠「地溝帯」 プレートがいずれ2つに分裂、紅海やスエズ運河に影響も」

 アイスランドの地割れを覗き込んだことがある。日中だったが、底が見えない。人が落ちたら助からない深さだ。幅は数十センチメートルから3メートルあまりだ。おそるおそる近づいたが、とても怖かったのを覚えている。

 日本にはあり得ないが、プレートが生まれているアイスランドにはこのような場所が多い。

 ところで、この初夏に、アフリカ・ケニア南西部で高速道路が突然、損壊する被害が出た。地震のときに生じた地割れだ。地震は、それほど大きなものではなかったが、地割れの幅は数メートル、長さが数キロメートルにわたって延びていた。

 幸い人も車も落ちなかった。だがこの長くて深い地割れは人々を怖がらせるのに十分だった。

 日本でも、地滑りの現場などで地割れは見えることもあるが、そもそもこんな長さで直線的に続いていることはない。

 ケニアには「地溝帯(ちこうたい)」と呼ばれる場所がある。アフリカ東部を南北に3000キロメートルも走る帯だ。北の紅海から、エチオピア、ケニア、タンザニア、ウガンダの5カ国にまたがる長大なものだ。この地溝帯が生んだビクトリア湖などの湖もある。ビクトリア湖はアフリカ最大の湖で、水面は7万平方キロメートルにも及ぶ。琵琶湖の100倍もある広大なものだ。

 この地溝帯に沿ってアフリカプレートはいずれ「ヌビアプレート」と「ソマリアプレート」の2つに分裂する。5000万年先には完全に分かれると考えられている。アフリカプレートはアフリカ大陸だけではなく、その周辺海域をカバーしている大きなプレートだから、紅海やスエズ運河も分かれて別のプレートになるわけだ。

 アフリカの地溝帯は、およそ3000万年前にエチオピア北部から始まって、その後、南方向へ年2.5〜5センチメートルの速さで伸びていったと考えられている。

 分裂の動きそのものは人々が感じる速さではない。だが、新たな断層が形成されるときは今回のように地震や地割れが起きて人々に知覚される。

 アイスランドはユーラシアプレートと北米プレートがここで分かれて生まれている。つまり、分裂が、いま進んでいるのである。

 アイスランドで、プレートが分裂するときには地震も頻発する。ただしマグニチュード(M)8クラスはほとんどない。ほとんどはM7どまりの地震だ。M7でも大地震だが、いままでは人口密度の低いところで起きているが、それなりの被害もあった。アフリカでは古い地震記録は完全ではないが、多くの地震があったに違いない。

 世界には地震国といわれる国がいくつかある。日本のようにプレートが衝突している場所と、プレートが生まれている場所がある。日本やメキシコは前者、アイスランドも東アフリカも後者だ。

 日本はプレートが衝突するところゆえ、プレートが生まれるところの景色は見られない。

 ところで、いちばん違うのはプレートが衝突する場所、日本にはM8を超える大地震が起きることだ。プレートが衝突する場所は世界でも抜きんでた地震国なのである。

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写真は島村英紀著『地震と火山の島国--極北アイスランドで考えたこと』から。アイスランドの地割れ。


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