島村英紀『夕刊フジ』 2021年10月15日(金曜)。4面。コラムその416「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

カナリア諸島ラパルマ島で半世紀ぶりに噴火

『夕刊フジ』公式ホームページの題は「カナリア諸島ラパルマ島で半世紀ぶりに噴火 農業も漁業も盛んで風光明媚な島の人々を追い立てた地震と火山」

 スペインもポルトガルも欧州本土には活火山はない。大西洋にポツンと離れた、それぞれの領土の島にあるだけだ。これらの島々はマグマの上にある火山島なのである。

 9月からスペイン領のカナリア諸島・ラパルマ島のクンブレビエハ火山(標高2426メートル)が噴火を続けている。

 1200軒あまりの家屋や教会が溶岩に押しつぶされていて、もっと増えるのではないかと怖れられている。85000人が暮らす島だが、幸いいまのところ人的な被害はない。

 溶岩の通り道を変えようとコンクリートの障害物を置いた。だが溶岩の比重はコンクリートよりも大きいので簡単に浮かせて動かしてしまった。

 噴火は、1949年と1971年で、半世紀ぶりだった。首相と国王夫妻が相次いで訪れた。国にとっての大事件なのだ。

 噴火には火山性地震の予兆があった。1週間前から群発地震が発生して数千回が発生。最大でマグニチュード(M)4近くの揺れが記録された。この予兆があったから6000人以上の避難が間にあった。噴火後は、地震が減って、噴火前の3日間は1日100回以上だったのが、噴火後は1日数回になった。

 同じく大西洋の孤島、アゾレス諸島もマグマの上にある島だ。こちらはポルトガル領だ。アゾレス諸島は7つの島からなるが、どれも火山島だ。

 島には地震観測所があり、私が行ったとき、日本式の大森式地震計が動いていた。

 じつは、アゾレス人はアゾレス諸島よりも米国に多い。現在の島民数の4倍、100万人にもなる。島では食えなくて流出した人々がいかに多かったかを物語っている。

 なぜ、気候も良く、農業も漁業も盛んで風光明媚なこの島では暮らせなかったのだろう。

 これはたびたび噴火に悩まされたせいだ。島の人々を追い立てたのは地震と火山だった。ここには地震も噴火も多い。なかでも1957年から続いた激しい地震と、すさまじい噴火のおかげで、多くの人は島に見切りをつけざるを得なかった。

 いつまた火山噴火や地震が頻発しないとも限らない。ラパルマ島でも、以前には1585年、1646年、1712年にも噴火している。地球にとっては、半世紀前はほんの昨日のようなものだ。
 アゾレス諸島の人々が、なぜ東のポルトガル本国ではなく、より豊かな西の米国に出て行かざるを得なかったについては説明がいるだろう。

 ポルトガルはかって栄華を誇った海洋王国で、世界中に植民地が広がっていた。

 しかし近年のポルトガルは欧州でも貧しい国に成り下がってしまった。いまポルトガルは、欧州各国で働く出稼ぎ労働者の大きな供給源である。アゾレス諸島の島民にとっては不幸なことに、本国は我が子である「難民」を援助することさえできない頼りがいのない親だったのである。

 国営ポルトガル航空の大西洋横断路線は、ポルトガル・アゾレス諸島・米国というルートで、無着陸の直行便はない。先祖の故郷を懐かしんでアゾレス諸島に里帰りする人が絶えない。無着陸の飛行よりは多くの客が期待できるからである。

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