島村英紀『夕刊フジ』 2022年6月17日(金曜)。4面。コラムその449「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

天文ファン垂涎の6月 水星、金星、火星、木星、土星・・7つの惑星が勢揃い

夕刊フジ』公式ホームページの題は「天文ファン垂涎の6月 水星、金星、火星、木星、土星…7つの惑星が勢揃い 最も見えるのは日の出の30分前」

 この6月の中旬からは天文ファンが見逃せない事件が多い。

 ひとつは惑星がすべてが勢揃いして、まとまって見えることだ。地上から空を見上げて、一度に全てがそろうのは珍しい。前回は2020年7月中旬の明け方だったが、惑星は大きく離れていた。次回が2025年2月下旬の夕方だが、やはり互いに離れている。今回はずっと好条件だ。

 惑星は太陽のまわりのほぼ同じ平面上を公転しているので、同じ平面上にある地球から見るために、ほとんど直線状になる。

 すでに6月はじめから明け方に全惑星が空に集まっている。水星は太陽系の一番内側にあるので、太陽からの見かけの距離(離角)が最大になる6月16日の前後が見つけやすい。それゆえ全体の惑星を眺めやすいのは6月中〜下旬だ。

 最もよく見えるのは日の出の30分前だ。関東地方をはじめ、あいにくの梅雨時だが、東から南東にかけての地平線上だけでも晴れれば見える可能性はある。

 太陽系には地球を除いて7つの惑星がある。8つと学校で習った人も多いに違いない。2006年に開かれた国際天文学連合(IAU)総会で、まわりに他の天体がないことを惑星の条件のひとつと定めたことと、火星と木星の間には多くの小惑星が回っているが、冥王星はこの小惑星なみの大きさしかないことが、近年明らかになった。この二つのことから冥王星は惑星ではなくなったのだ。発見当初は地球なみの大きさだと思われていたが、じつは直径2370キロメートルしかなくて、月よりも小さな天体なことが分かったのだ。

 惑星のうちで肉眼で見やすいのは、太陽から近い順に水星、金星、火星、木星、土星の5つだ。今回はこの順番で見える。この順に並ぶのは2040年まで待たなければならない。天王星の明るさは約6等で、よほどの好条件でなければ肉眼で見るのは不可能だし、海王星は約8等で望遠鏡を使わないと見えない。

 これらの惑星に加えて6月24日には金星と火星の間に三日月も並ぶ。

 もう一つのイベントはスーパームーンだ。7月14日の未明には、2022年中では地球から最も近い位置で満月になる。地球に最も近い満月は、地球から最も遠い満月に比べて視直径が約12%大きく、光っている面積が広くて26%だけ明るいことになる。

 月は7月13日18時すぎに近地点を通過し、翌日の3時38分に満月になる。このときの「地心距離」は約35万7400キロメートル、月の視直径は約33分25秒角だ。「地心距離」とは地球の中心から月の中心までの距離で、月の軌道は真円ではないから同じ満月でも変化する。スーパームーンかどうかの違いだ。

 ところで、夕方に昇ってきたばかりで、まだ高度の低い満月を、とても大きく感じたことがある人は多いだろう。

 だが、これは錯覚(さっかく)なのだ。地上のビルや山と比べるので、大きく見えるだけなのである。天頂近くにある月のほうが、地平線近くにある月よりも地球の半径分、つまり6400キロメートル分だけ大きく見えているはずなのだ。

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