島村英紀『夕刊フジ』 2022年7月1日(金曜)。4面。コラムその451「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

困難な時期に起きたアフガニスタン地震

『夕刊フジ』公式ホームページの題は「もっとも困難な時期に起きたアフガニスタン地震 動き続ける「インド亜大陸」のせいで地震常襲地帯に」

 また「インド亜大陸」が大地震を起こしてしまった。6月22日のことだ。しかもアフガニスタンという最悪の場所とタイミングだった。

 インド亜大陸はインドを載せている大陸だ。赤道を超えてきて1000万年あまり前に、いまの位置にくっついた。そのあとも北上を続けている。このため地殻がまくれ上がって.ヒマラヤなどの高山を作った。それだけではない。中国南部、パキスタン、ネパール、アフガニスタンなどの国々に大地震を起こしている。

 9万人の犠牲者を生んでしまった2008年の中国・四川大地震(マグニチュード=M=7.9)や、やはり多くの死者が出た2005年のパキスタン大地震(M7.6)が襲い、ネパールでも2015年のネパール大地震(2015年、M7.8)で数千人が犠牲になった。

 今度のアフガニスタン地震もインド亜大陸が起こした地震の一つだ。震源は南東部、パキスタンとの国境に近い遠隔地、ホスト州の州都ホストの南西約50キロメートル。

 山岳地帯とモンスーン期の激しい雨と強風のせいで被害の全貌は分かっていないが、第一報では1000人以上が犠牲になったと報じられている。送電や通信が遮断され、落石と土砂崩れで山岳部の道路が不通になっている。多くの人が倒壊した家屋の下にまだ閉じ込められていて、コレラの感染も懸念されている。

 しかもアフガニスタンを2021年8月からイスラム主義勢力タリバンが支配している。米国などはアフガニスタンの外貨準備の凍結や国際的な資金提供を中止した。各国が制裁したために国際的な直接支援を断たれている。経済の悪化に歯止めがかからず、収入減少に物価高騰が重なって家庭の生活水準が著しく低下した。その上、旱魃(かんばつ)も起きた。国民の半数が飢餓に見舞われている。

 そこへ地震が襲った。地震は人々が寝静まっている深夜だった。しかもモンスーンの豪雨とちょうど重なったために、日干し煉瓦(れんが)で作られた伝統的な住宅はとくに弱い状態だった。同国に限らず、南、西アジア各地では「日干し煉瓦」という泥を乾燥させただけの煉瓦を積み上げた家が多い。

 アフガニスタンはもっとも困難な時期に地震に見舞われたのだ。捜索や救助のための資・機材も足りない。パクティカ州ガヤン地区ではいくつかの村全部が壊滅した。

 Mは5.9と推定されている。日本でこの規模の地震が起きてもこれだけの被害は出ないだろう。これはひとえに、手に入りやすい安価な材料で家を造っているからだ。建築基準法もない。

 現場の道路は整備されていない山岳地帯のため被災地域へたどり着けないことが最も大きな課題になっている。しかも強風とモンスーンのために救難のヘリコプターが飛べないことも多く、地面もぬかるんで歩けない。

 同国では2015年10月にも北東部で地震が起き同国や隣国パキスタンなどで計380人以上の犠牲者が出た。じつは同国では過去10年間で7000人以上が地震で死亡している。年平均すると死者は約500人を超える。

 動き続けるインド亜大陸のせいで、中国南部からアフガニスタンに至る一帯は地震常襲地帯になっているのである。

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