島村英紀『夕刊フジ』 2014年4月11日(金曜)。5面。コラムその46 「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」

揺れが増幅、地盤の複雑構造
『夕刊フジ』公式ホームページでの題は「揺れを増幅させる地盤の複雑構造」

 さる3月14日に愛媛県沖の瀬戸内海でマグニチュード(M)6.2の地震があった。幸い死者は出なかったが、近隣の6県で21人の負傷者、半壊の家26軒が出た。

 震源は伊予灘と報じられた。愛媛県の北側だ。しかし私たち地震学者から見ると、これは地下80キロのところでフィリピン海プレートが起こした地震で、震源の上がたまたま瀬戸内海だったのにすぎない。

 この地震はいままでもくり返してきた。ひとつ前は2001年に起きた「芸予(げいよ)地震」でM6.7と大きかった。このため被害は広く8県に及んで死者2、家屋の全半壊は600棟を超えた。

 もうひとつ前の地震はもっと大きかった。1905年に起きた「明治芸予地震」はM7.2。11人の死者が出た。さらに前にも1857年、1686年、1649年に同じような地震が知られている。

 ここの地下では南海トラフから潜り込んだフィリピン海プレートが北北西に向かって深くなっていって、プレートの先端は瀬戸内海から中国地方の地下まで達している。先端部の深さは地下100キロほどだ。

 地震がくり返している瀬戸内海の下あたりでプレートは不自然な曲がり方をしている。この曲がりが地震のくり返しに関係しているらしいが、なぜなのかは分かっていない。

 ところで私たち地震学者には2001年の芸予地震は地下の岩盤と地表との両方に地震計があってその差が分かったことで記憶されている。

 震源から60キロ離れていた広島市の北にある湯来町では、最大加速度が832ガルにも達した。400ガル以上は震度7相当なので、大変な加速度だった。一方、地下100メートルの基盤岩に設置してあった地震計では最大加速度は150ガルにしかすぎなかった。

 地盤のせいで地表では6倍近く、震度にして2階級以上も増えてしまったことになる。

 このように地表での地震の揺れは地下の岩の揺れよりもずっと大きくなる。広島だけではない。

 地盤による震動の増幅は皿に載せたこんにゃくを皿ごと振っているようなものだ。皿の動きより、上に載せたこんにゃくのほうがずっと揺れる。

 もっと複雑な「増幅」があったこともある。

 2009年8月に静岡県御前崎沖の駿河湾でM6.3の地震が起きて震度6弱を観測した

 近くにある中部電力の浜岡原発では5号機の原子炉建屋で488ガルを記録して原発は緊急停止した。耐震設計指針の基準値を超える加速度だった。数百メートルしか離れていないほかの原子炉よりも5号機だけが2倍も揺れたのだ。

 地震の後でボーリングなど詳しい調査が行われた。そして地下300-500メートルのところにレンズ状の軟らかい地層が見つかった。下から上がってくる地震波を、凸レンズが太陽の光を集めるように5号機に向かって集中させたのだった。

 地盤は地震の揺れを大きくする。そしてときには局所的にさらに大きくしてしまう。恐ろしいのは、地震が起きるまで分からないことがあることなのだ。


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