島村英紀『夕刊フジ』 2022年10月14日(金曜)。4面。コラムその465「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

世界初の「地球防衛」実験に成功

『夕刊フジ』公式ホームページの題は「世界初の「地球防衛」実験に成功 無人探査機を小惑星に体当たりさせて軌道変える」


 米国航空宇宙局(NASA)は9月の末に世界初の「地球防衛」実験に成功した。無人機査機DARTを小惑星「ディモルフォス」に体当たりさせて軌道を変えた。宇宙空間にある天体の動きを変えた初の実験になる。

 ディモルフォスは直径160メートル。地球に脅威を及ぼす恐れはないので、単なるテストだ。地球からは約1100万キロ離れている。より大きな小惑星ディディモスの周りを公転する小惑星だ。

 この隕石がもし落ちてくると、直径1〜2キロの巨大なクレーターが開く。大変な衝撃で多数の犠牲者を生みかねない。

 たとえば2013年、17メートルの大きさの隕石(いんせき)が西シベリア・チェリアビンスクに落ちてきた。隕石はディモルフォスよりずっと小さい。だが衝撃波で東京都の面積の7倍もの範囲で4000棟以上の建物を破壊し、重軽傷者1500人を生んだ。

 今回の実験では比較的小さな天体に人工衛星をぶつけたから成功した。宇宙船の衝突で天体の進路をそらす。この方法は「動力学的衝突体技術」といわれる。

 しかし、もっと大きい天体、たとえば直径が500メートルを上回る天体では、宇宙船の重さに制約があるために、この方法は使えない。大きい隕石こそ地球にとっての脅威となるのに、この方法が使えないのは困る。

 大きな隕石が落ちてきて、世界で跋扈(ばっこ)していた恐竜が6600万年前に絶滅したことがある。隕石の大きさは10キロメートルほどあった。それはメキシコ湾に落ちた隕石で、舞い上がった岩石のチリが広く地球を覆って植物が光合成が出来なくなって環境を激変させてしまった。恐竜だけでなく、動植物の75%が絶滅した。マグニチュード(M)10にもなる震動や、高さ300メートルを超える津波を生んだ。M10の地震とは、過去100年間に世界で起きたすべての地震が同時に発生した大きさだ。

 大きな隕石が地球に衝突する頻度は、これまで考えられていたよりもずっと高いと分かってきている。もし、この種の隕石の落下がまた起きたら、人はその落下地点から1000キロ以内では岩石の破片や、火球によって死んでしまう。

 これを避けるためにいま考えられているのは核爆弾を打ち上げて、小惑星を別方向に誘導するか、破壊する方法だ。

 NASAの論文は他の方法がすべて失敗に終わった最後の手段として核による防衛をあげている。

 1962年に米国がミッドウェー環礁の400キロ上空で核実験した。だが、2000キロも離れた米国・ハワイでラジオ局は機能不全になり、緊急サイレンが鳴り、街灯が消えた。以後、宇宙空間での核爆発は、宇宙条約で禁止されている。

 直径200メートルの小惑星を爆破するには、広島に投下された原爆の200倍の威力を持つ必要がある。ミッドウェーの爆発は広島の原爆の500倍の威力だった。

 核爆弾を使うときに最も効果的なのは、その天体にドリルで穴を開け、爆弾を埋め込んでから爆発させる方法だろうと科学者は指摘している。

 さて、地球を救うために人類は核爆発を使うことになるのだろうか。

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