島村英紀『夕刊フジ』 2023年1月20日(金曜)。4面。コラムその477「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 


磐梯山で火山性地震が増加

『夕刊フジ』公式ホームページの題は「不気味、磐梯山で火山性地震が増加 2000年にも「噴火前兆」騒ぎ…今回も静かに収まるか」

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 福島・磐梯山(1816メートル)で、また、火山性地震が増えている。2022年12月の末の話だ。

 「また」というのはほかでもない、2000年夏の「噴火前兆」騒ぎのことだ。この年にはそれまでにないほどの火山性地震が頻発した。

 地元の誰もが1888年の大噴火を思い出した。19世紀で日本最大の噴火だった。磐梯山の山体崩壊が起きて形が大きく変わっただけではなく、五色沼が作られた。20億〜30億トンもの岩石が噴出した。犠牲者は500人近かった。いくつもの村や山林や耕地が埋まった。噴火は1日で終わった水蒸気爆発だったが、すさまじい噴火だった。川がせき止められて、その後の観光名所、五色沼も作られた。

 2000年には地震が増えていつ噴火しても不思議ではなかった。しかも1965年の観測開始以来初めて火山性微動が発生した。やがて山頂直下で起きる低周波地震や火山性微動もたびたび観測されるようになった。火山性微動とは地震計が捉える連続的に続く振動で、地下のマグマの動きと直接関連するものだと思われている。これも40年来初めてのことだった。

 地震計が置かれてから最も多い地震だった。他の火山では、この程度の前兆で噴火した例はいくらでもあった。

 しかし、噴火は起きなかった。山は静かになってしまったのだ。

 今回、2022年の磐梯山では、年末ぎりぎりの12月27日の正午ごろから火山性地震が増加しはじめ28日は午後5時までに601回発生し、これまでにない地震活動になっている。磐梯山で1日に400回を超える火山性地震が観測されたのは、2000年8月15日以来22年ぶりだ。震源はおおむね山頂の北西2キロ、深さ2キロ付近である。

 磐梯山北側火口や沼ノ平付近では、従来から噴気や火山ガスの噴出等が見られるので、気象庁ではヘルメットの携行や立ち入り規制など、地元自治体の示す指示に従うよう注意をうながしている。

 今後、低周波地震や火山性微動の増加など、火山活動がさらに高まった場合には、気象庁は噴火警戒レベルを1から2に引き上げる可能性があるという。

 いまのところ地震の規模は小さいが、現在も地震活動が継続している。

 観光で生きる地元は、これから始まる観光シーズンにじりじりしているのに違いない。

 2000年には観光客は目に見えて減っていた。気象庁が渋い顔をしているのを尻目に、地元の3町村は独自の判断で入山規制を解除してしまった。

 そのときに地元福島県の担当部署が全国の地震・火山学者にアンケートのメールを送って、見通しを聞いた。私も聞かれた。

 アンケート後、県からお礼のメールは来たが、肝心の集計した結果や、そもそも誰に聞いたのか、何人に聞いて何人から返事が来たのかについては、なにも教えてもらえなかった。結局はアリバイづくりのために使われたのであろう。

 今度の群発地震も、静かにおさまってほしいと地元は願っているに違いない。

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