島村英紀『夕刊フジ』 2023年4月21日(金曜)。4面。コラムその489「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」
今後、野球のホームラン数が10%増加する?
『夕刊フジ』公式ホームページの題は「今後、野球のホームラン数が10%増加する? 地球温暖化による空気密度の低下に関連、空気抵抗が少なくボールが飛びやすく」
大学にはいろいろなことを研究している人がいる。米国ダートマス大学でキャラハン氏らの研究チームは「気候科学」を研究しているはずだが、プロ野球リーグのメジャーリーグベースボール(MLB)のホームラン数を数えている。
MLBはアメリカとカナダに本拠を置く30チームから構成されるが、近年はMLBでのホームラン数が増えている。
ホームランは増加傾向にあり、2016年以降の年間ホームラン数は5000本以上になっている。2015年以降は連続して1試合あたりのホームラン数が1本を超えている。
近年のホームラン数の増加にはいろいろな説がある。たとえば「フライを打ち上げる方がヒットの確率が上がる」という発想から「フライボール革命」などの要因がある。他に選手やコーチらの影響、ボールの設計と製作、選手のステロイド服用、ゲームの分析の高度化、球場の標高といったホームランに関連する各種要因を考慮しなくてはいけない。
このため1962年〜2019年のMLBで行われた10万以上の試合とその日の気象データを分析する研究を行う羽目になった。
また、2015年から各球場に設置されたハイスピードカメラが計測した打球の発射角度と発射速度を調べることもやった。
この膨大な研究の結果、環境要因にも左右されている可能性があることを突き止めた。
平均的な日より気温がセ氏10度高い日に行われた試合では、ホームランが出る確率が約20%も高いことが分かった。
つまり地球温暖化による空気密度の低下に関連していたのだ。
気温が高くなると空気の密度が低下する。だから空気抵抗が少なくなってボールが飛びやすくなるのだ。空気の密度は、空気中の分子の数や重さで、気温が高くなると空気の密度は低くなる。つまり暑い日は空気が薄くなる。その結果ボールはより遠くまで飛ぶことができるようになるのだ。
ホームランで、高くまで舞い上がった打球がフェンスの彼方に消えていく。それを見る心境は、打ったバッターだけではなくファンにとっても格別なものだ。野球を観戦する醍醐味でもある。
地球温暖化によって、1シーズン当たりのホームランが平均58本増えたと考えられる。
この勢いで行ったら何本増えるのだろうか。
もし現在のペースで地球温暖化が進めば、2100年には、ホームランでの気温の寄与率が10%跳ね上がるかもしれない。
また、温暖化の進行がさらに悪化した場合、2050年までにホームランは年に192本増え、2100年には467本に増加すると試算されている。
MLB球団が気温上昇がホームラン数に与える影響を減らすには、日中のゲームではなく夜間のゲームを増やしたり、球場の上にドームを付けて内部の気温を調整したりすることが可能ではある。
だが、地球の温暖化は際限がない。気温の上昇は野球選手や球場のファンに限らず、世界中の人々の健康と安全を脅かすことになるのである。
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