島村英紀『夕刊フジ』 2023年5月19日(金曜)。4面。コラムその492「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

海底火山新たに2万個を発見。将来の大地震にも関係 一方でレアアースの宝庫
『夕刊フジ』公式ホームページの題は「海底火山新たに2万個#ュ見 将来の大地震にも関係 一方でレアアースの宝庫、次世代の自動車に不可欠な材料に」

 海底から1000メートル以上隆起し、頂上の直径が大きくないものは「海山」と呼ばれている。海底には海山が数万個あり、まだ発見されていないものも多い。

 海山のほとんど全部は玄武岩だ。まわりのプレートの玄武岩とは年代が違う。プレートは生まれたときに海嶺から出てきたマグマが冷えた玄武岩だが、海山はプレートが動き出した後に、プレートを突き抜けて噴き出したもので、富士山のような単独峰が多い。現在は火山としては活動していなくてももともとは海底火山だと思われている。

 なお、海底火山より山頂が大きなものは「海膨(かいぼう)」と呼ばれているし、低いものは「海丘」と名づけられている。ともに海底火山で、大きさだけが違うものだ。

 海山はプレートに固着しているので、プレートが海溝で潜り込むときには地震を起こす。

 ところで、今は小さな海山の列が福島沖と九州・日向灘沖にある。これら海山列がマグニチュード(M)8クラスがここではM7クラス以下しか起きない理由だと思われている。つまり、大地震を「散らす」働きをしているのだろうと考えられている。

 茨城沖の第一鹿島海山は二つに割れている。この海山は海膨級の大きさがある。海山の西半分がプレートに乗って沈み込んでいるが、大きすぎて二つに割れたのだろうと想像される。第一鹿島海山が沈み込んだのは何千年も前だが、そのときには大地震が起きたはずだと思われている。

 海底火山が多いのがホットスポットの周辺だ。ここではマグマが地球のマントル深部から上昇し噴出している。

 またプレートの境でも海山が作られる。ここは2枚のプレートが衝突して温度が上がり、一方が他方のプレートの下に潜り込む沈み込み帯だ。

 プレートが離れることで、その間からマグマが上昇する発散型プレート境界にも多い。

 海底火山は将来の大地震にも関係するが、海底には海山がまだ発見されていないものが多い。私の乗った観測船が海図が整備されていない地域に入ったとき「6000メートルの海底から3000メールまで水深が上がったら、あと数分でぶつかるから」と言われて緊張したことを思い出す。

 こうした海面の盛り上がりを人工衛星のレーダーで検出し、海山の有無を調べる。米国・カリフォルニア大学サンディエゴ校などのチームは重力のデータから大量の海山を発見した。研究では「重力勾配マップ」を利用して約2万個もの新しい海山を発見した。

 大量の海山を見つける手がかりとなったのがこのマップだ。海山のような質量があるところでは、その重力の影響で海面が高くなる。重力が弱いところから強いところに海水が引き寄せられるからだ。

 また海山には大量のレアアース(=17元素の総称)が眠っている。将来は採掘する可能性がある。主な用途はハードディスクの磁性膜を付けたガラス基板のほか、次世代の自動車に不可欠な磁石の材料であるネオジム、排ガス触媒に使われるセリウム、ランタンなどがある。地球上に偏在していて貴重なものだ。

 
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