島村英紀『夕刊フジ』 2014年7月4日(金曜)。5面。コラムその58 「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」

超難題!! 日本でいちばん安全な場所とは
『夕刊フジ』の公式ホームページでの題は「”超難題” 日本で一番地震が起きにくい場所とは?」

 講演をしたときの質問でいちばん困るのは「どこに住めば、いちばん地震が少ないでしょうか」と聞かれることだ。

 残念ながら地震学者には、日本で一番地震が起きにくいところがどこかは答えられない。

 私が学生のころ、地震学者の大先生が作った地図では新潟が日本でいちばん安全なところとされていた。だが、その直後に新潟地震(1964年)が起きて大きな被害を生んでしまった。

 この先生の研究に限らず、将来の地震危険度を表した地図は過去いくつもある。政府の委員会も権威があるはずの地図を発表している。

 だがどの地図でも、安全だとされたところにその後、地震が起きた。福岡県西方沖地震(2005年)や、新潟県中越地震(2004年)や、新潟県中越沖地震(2007年)は、当時のどの地図にも危険度が低いとされていたところに起きた。福岡県西方沖地震は、日本史上初めて起きた地震だったのでまったくのノーマークだった。

 いままでに起きた地震を日本の地図上に並べると、ほぼ全国にわたる。しかし中には白く抜けている領域がある。じつはこれがくせ者なのだ。

 世界ではもっと話は簡単である。世界には先天的に地震が起きない場所が多いからだ。たとえば、カナダもオーストラリアもほとんどの場所が白く抜けている。ここには将来とも地震は起きない。

 しかし日本では白く抜けているからといって、将来地震が起きないとは言えない。そこはいずれ地震を起こすべく、地下で地震のエネルギーが着々とたまっていっているところかもしれないからである。

 残念なことに現在の地球科学では、地下にどのくらいの地震エネルギーがたまっているかを知る方法はない。

 新潟の2つの地震の前にはここは見事に白く抜けていたし、阪神淡路大震災(1995年)の前にも真っ白であった。

 日本は4つのプレートが衝突しているところだ。それゆえプレートが押し合っている最前線はもちろん、日本の地下のほとんどのところでは岩のひずみがたまっていっているのだ。世界でも2つのプレートが押し合っているところは地震が多い。しかし4つものプレートが押し合っているのは、世界広しといえども日本だけなのである。

 ところで、北海道のオホーツク沿岸だけは、日本では珍しく,地震が起きそうもないところだ。これは、北海道の東半分が別のプレートに載ってきた島が西半分と衝突したところなので、プレートの性質が違うせいなのである。

 もし、地震がとても嫌いな人がいたら、オホーツク沿岸に住むのがいいかもしれない。だが、とても寒いところなのは覚悟してほしい。とくに冬の後半から流氷が接岸しているあいだは寒い。

(写真はオホーツク沿岸の紋別市で。島村英紀撮影)

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