島村英紀『夕刊フジ』 2014年8月1日(金曜)。5面。コラムその62 「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」

見極めにくい火山性地震
『夕刊フジ』公式ホームページでの題は「火山性地震か、構造性地震なのか見極めるのは難しい」

 気象庁は日本のどこかで震度5弱以上の地震が起きると、昼夜を問わず記者会見を開いて起きた地震について説明することになっている。このため東京千代田区にある気象庁では課長か課長補佐以上がネクタイやスーツを用意して交代で泊まり込んでいる。

 7月8日には北海道南部にある白老(しらおい)町で震度5弱を記録した地震があって記者会見が開かれた。

 気象庁は火山との関係はないという。東日本大震災の3日後に富士山の直下で大きな地震が起きて地元で震度6強を記録したときも震源は富士山直下とは言わず「静岡県東部」と発表した。

 今回のマグニチュード(M)は5.8、震源の深さは気象庁の発表で「ごく浅い」。つまり深さが決められないくらい浅かったということだ。

 
不思議なのは震源の位置だった。白老町は太平洋岸にあり、震源から20キロも南に離れている。震源は支笏(しこつ)湖のすぐ南、つまり樽前(たるまえ)山(1041メートル)の直下にあったのだ。白老の震度が最大震度として記録されたのは震度の観測点が近くにはなかったからだ。

 樽前山は活火山で、噴火するのでは、と近年、緊張が高まっている。山頂は立入禁止になっている。頂上に熔岩ドームがシルクハットのような形でそびえていて、噴火でこのドームが崩れると大規模な火砕流が起きて山麓の苫小牧市などを襲う可能性が高い。

 もし樽前山が噴火をしたら函館から札幌へ行くJRのほか近くの新千歳空港も使えなくなる。つまり本州と札幌を結ぶ北海道の大動脈が切られてしまうことになる。過去の大噴火のときには火山灰は日高山脈を越えて道東にまで降った。

 じつは地震学的には、起きた地震が「火山性地震」なのか、普通の地震(学問的には「構造性地震」という)かを見分けることは難しい。

 この8日の地震も、起きた場所といい、起きた深さといい活火山と関係があるのではないかという嫌疑は強いが、それを見分ける根拠はない。このへんで浅い構造性地震が起きることは珍しいだけに、火山との関連が疑われるのだ。

 もちろん樽前山を監視するために、さまざまの火山現象をとらえるための監視も行われている。それらに変化があれば「火山情報」が出されることになっている。いまのところは「情報」は出ていない。

 震源の近くに観光地「苔の洞門」がある。岩が両側に切り立った昼なお暗い通路にびっしり苔が生えている奇観だ。これは1739年に樽前山が大噴火して大量の火砕流が積もってできた溶結凝灰岩(ようけつぎょうかいがん)が、その後の土石流で侵食されて作られた深い枯れ沢である。

 8日の地震で洞門の観覧台近くで1メートルを超える岩が崩れ落ちたほか、洞門内部でも4-5カ所で崩落が確認された。

 幸い地震が起きたのが午後6時すぎで現場の営業は終わっていた。観光客はおらず、けが人はなかった。もし数時間早かったら悲劇が起きていたかもしれない。

(樽前山頂の熔岩ドームの写真。2011年11月、太田克亮氏撮影。熔岩ドーム(熔岩円頂丘)の比高は約130m,直径は450mある。)

樽前山のこのほかの写真はこちらにも

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