島村英紀『夕刊フジ』 2014年8月8日(金曜)。5面。コラムその63 「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」

火山も原発も透視できる「ミュー粒子」

 知らない間に皆さんの身体はもちろん、岩も通過していっている透過力が強い素粒子がある。ミュー粒子というものだ。宇宙線が地球の大気と衝突して次々に生まれている。寿命はたった100万分の2秒しかないが、1平方メートル当たり毎分1万個も飛んでいる。

 このミュー粒子を使って、いままで見えなかった火山の内部が見えるようになった。

 だが、それだけではない。メルトダウンを起こした福島第一原発の内部調査にも使われようとしている。

 原発の中はめちゃめちゃになっているに違いない。破壊された3基の原子炉の炉心のほか、放射性物質まみれの何百トンものがれき、そして崩れ落ちた原子炉建屋の建材や金属フレーム・・。

 しかしこの内部、とくに溶け落ちた核燃料が正確にどこにあってどうなっているかは、まったくわからない。これを知らなくては廃炉作業が進まない。

 これを調べるために原子炉内に立ち入ることはとうてい不可能だ。カメラを入れるために穴を開ければ、そこから大量の放射性物質が飛び出すから、これも危険だ。

 身体の内部ならばX線で透視できるから、骨や内臓の密度が濃淡で表された写真が撮れる。だが原子炉も火山も、X線では通りぬけられない。

 一方、ミュー粒子ば3メートルもの厚いコンクリートに取り巻かれた原子炉や、火山岩や火山灰に覆われた火山の内部も通りぬけられる。そしてX線写真と同じように内部にあるものの密度に応じた写真を撮ることが出来る。

 火山でどのようにマグマが上がってきて噴火に至るのか、噴火の後で残ったマグマはどこへいってしまうのか、といった噴火のメカニズムは、まだ十分にわかってはいない。

 ミュー粒子を使った透視は、長野・群馬県境の浅間山や北海道の昭和新山などで始まったばかりだが、まだぼんやりした画像ながら、少しずつわかってきている。

 それによれば、浅間山では火道(かどう)の上部に空洞が見えた。火道とは噴火のときのマグマの通り道だ。つまり噴火が終わった後で、火道を満たしていたマグマは冷えて下に落ちてしまっていたことがわかった。

 ところで原子炉や核兵器に使われるウランやプルトニウムは特別に密度が大きいのでこのミュー粒子を使う透視手法が有効だと思われている。

 すでにウランやプルトニウムの密輸を防ぐために、怪しいと思われる船積み用のコンテナ輸送容器を開けずに外部からスキャンするための装置は米国で使われている。

 これはまだ、ぼやけた像しか見えないが、その装置を洗練して、福島の原子炉の内部を精密に見ようとしているのだ。うまくいけばいいのだが・・。

この記事
このシリーズの一覧

島村英紀・科学論文以外の発表著作リストに戻る
島村英紀が書いた「地球と生き物の不思議な関係」へ
島村英紀が書いた「日本と日本以外」
島村英紀が書いた「もののあわれ」
本文目次に戻る
テーマ別エッセイ索引へ
「硬・軟」別エッセイ索引へ



SEO [PR] 住宅ローン フラワーギフト 必勝祈願 冷え対策 動画 無料レンタルサーバーSEO