島村英紀『夕刊フジ』 2014年9月12日(金曜)。5面。コラムその68 「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」

日本海溝に迫る大地震予備軍「海山」

 この8月、太平洋中部で新しい海山(かいざん)が発見された。まだ名前はない。5500メートルの深さの深海平原から立ち上がっている高さ1100メートルの山だ。山頂付近の傾斜は23度。山頂は富士山のように凸凹している。なかなか形のいい孤立峰である。

 これがもし陸上だったら、高さ1000メートルもの山が、いままで見つかっていないことはあるまい。しかし海底ではこのくらいの山が「発見」されることは珍しいことではない。超音波を使って精密に調べなければ海底地形が分からないからである。

 見つかったのは米国領ジャービス島の東南300キロ、太平洋のほぼ真ん中だ。島は長いところで2キロあまりしかない無人の小島だが、国立野生動物保護区になっている。米国はこの周辺で排他的経済水域の調査をしているときにこの海山を見つけた。

 太平洋の底は太平洋プレートで覆われている。プレートは東太平洋にある海嶺(かいれい)で生まれ、年に8センチほどの速さで北西に動いている。終着地は日本の東にある日本海溝や千島海溝だから、この辺ではほぼ半分だけ進んだところになる。この海山はプレートが生まれたときに作られたに違いないから、約1億年かかってここまで動いてきた。ちなみにジャービス島は海山がずっと大きかったので山頂部分にサンゴ礁が着いて島になっているものだ。

 ほぼ平らな太平洋の海底に海山は数多く、それぞれがプレートに乗って日本海溝や千島海溝に押しよせてきている。

 たとえば千葉県犬吠埼東方約160キロの日本海溝にある第一鹿島海山は富士山なみの大きな海山だが、プレートに乗って海溝にぶつかったときに、うまく沈み込めなくて割れてしまった。

 山体の西半分が正断層を作って割れて海溝に崩落している。その崩落した部分の海溝が浅くなっているだけではなくて西側の海溝壁には海山から崩落した岩石が散乱しているのだ。しかし、いずれは海山の本体が日本海溝に呑み込まれる。

 ここから西側の海底には複数の膨らみがある。これらは昔、別々の海山が沈みこんでいった名残にちがいない。

 ところで、こうして海山が海溝にひっかかってから最終的に沈みこむまで大きな地震エネルギーを溜め込んで、それを一気に放出するのではないかという学説がある。

 東北地方太平洋沖地震(2011年、東日本大震災)はまれに見る巨大な地震だった。この地震が起きる前、プレートの境界が半径70キロほどの範囲でしっかりくっついていたことがわかったのだ。

 この部分は太平洋プレートに乗ってきた古い海山で、これが引っかかることによって大きな地震エネルギーを蓄積したのではないかと考えられているのである。

 第一鹿島海山の「後続」として香取海山、第二から第五までの鹿島海山、磐城海山などが、日本海溝に迫ってきている。これらもいずれは日本に大地震を起こす予備軍なのであろう。

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