島村英紀『夕刊フジ』 2014年9月19日(金曜)。5面。コラムその69 「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」

首都直下 静穏期間終わった
『夕刊フジ』の公式ホームページの題は「プレート30−40センチずれ地震リスク高まり 終わった静穏期間」

  さる16日午後、茨城県の地下50キロほどのところでマグニチュード(M)5.6の地震が起きた。この地震で近隣3県のかなり広い範囲で震度5弱を記録した。怪我人が11人出たほか、崖が崩れて自動車が埋まった。

 江戸時代から現在までの首都圏の地震活動を見ると、不思議なことに関東地震以来の90年間は異常に静かだったことが分かる。たとえば東京の気象庁(千代田区大手町)ではこの90年間に震度5を記録したのは東北地方太平洋沖地震(2011年、東日本大震災)と2014年5月の伊豆大島近海の地震を入れても4回しかなかった。

 じつは関東地震とよく似た海溝型地震である元禄関東地震(1703年)のあとも約70年間、静かな期間が続いたのだ。

 その後、関東地震までは地震ははるかに多かった。江戸時代中期の18世紀から24回ものM6クラス以上の地震が襲ってきていたのだ。被害地震も多かった。平均すれば、なんと6年に一度にもなる。

 つまり首都圏で起きた海溝型の地震である関東地震と元禄関東地震以後、大きい地震がほとんどない状態が続いていたのである。

 首都圏の地下には、プレートが3つ(太平洋プレート、北米プレート、フィリピン海プレート)も同時に潜り込んでいて、それぞれのプレートが地震を起こすだけではなくて、お互いのプレートの相互作用で地震を起こす。つまり、いろいろな場所のいろいろの深さで何種類もの地震断層が地震を起こしているのだ。今回の地震は茨城県の太平洋沖にある日本海溝から潜り込んだ太平洋プレートが茨城県の地下で起こした。

 世界では2つのプレートが衝突しているために地震が多発するところはある。しかし3つのプレートが地下で衝突しているところは少なく、なかでもその上に3000万人もの人々が住んでいるところは、世界でもここにしかない。

 つまり首都圏は「地震が多くて当たり前」のところなのである。

 このほかに東北地方太平洋沖地震の影響がある。M9という巨大な地震は東日本全体を載せたまま北米プレートを東南方向に大きく動かしてしまった。首都圏でも30-40センチもずれた。このために、日本列島の地下がリセットされてしまったことになる。各所に生まれたひずみが地震リスクを高めているのである。

 不幸中の幸いだったが今回の地震は震源がやや深かった。このためマグニチュードのわりに地表での揺れが小さく、被害も限られていた。しかしもっと浅い地震は過去にも起きたし、これからも起きる可能性が高い。

 先月も栃木県北部で局地的には震度5弱の地震が起きた、そして今回の震度5弱。首都圏は一時の静穏期間が終わって、いわば「いままでよりは多い」そして「プレートが三つも入り組んでいる場所では普通の」状態に戻りつつあるのだろう。

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