島村英紀『夕刊フジ』 2014年10月3日(金曜)。3面。コラムその71 「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」

御嶽山の噴火予知が失敗したワケ

 御嶽山の噴火予知には失敗した。気象庁が火山ごとに発表している「噴火警戒レベル」1(平常)という登山もしていい状態からいきなり噴火したので、火山活動の被害としては戦後最悪の規模になってしまった。気象庁が警戒レベルを3(居住地域近くまで生命に危険の及ぶ噴火が予測されたり発生したりする)に引き上げたのは噴火の40分も後だった。

 じつは火山の噴火予知は学問的にはまだまだの段階なのである。

 火山は山ごとに違う性質を持っていて、なかには噴火予知に成功した例もある。しかし、予知に失敗して今回のように不意打ちの噴火が起きてしまった例も世界的に数多い。

 いちばん成功した例としては北海道・室蘭の近くにある有珠(うす)山がある。2000年に噴火したときは事前の警告で住民が避難して死傷者は一人も出なかった。

 有珠山は歴史上知られている7回の噴火すべてで、近くに有感地震が起きだしてから1-2日以内に噴火した。つまり経験的に噴火予知ができる火山なのである。だがこの有珠山でさえ、噴火に至る学問的なメカニズムは分かっていない。

 また鹿児島・桜島のように、年に数百回も噴火する火山では、大学による精密な観測網が敷かれているうえに蓄積した経験も豊かなので噴火予知が成功している。

 しかし、有珠山にせよ桜島にせよ、噴火予知はせいぜい数日前にしかわからない。数週間以上前には、何も分からないのが実情なのである。

 そして、このほかの日本のほとんどの火山では今回の御嶽山と同じように噴火予知が出来なくて不意打ちになる可能性が高い。

 これは火山ごとに性質が違うためだ。ひとつの火山で使えた予知の方法が、ほかの火山では役に立たないことが多い。実情は、地下で起きている「事件」が精密に分からなくても「実用的な噴火予知」だけはいくつかの火山で成功してきた、ということなのだ。

 このためいまの学問水準では火山を監視するには多様な経験と豊富な知識に裏付けられた判断能力が必要だ。有珠山も桜島もそれぞれの地元の大学が「ホームドクター」のように経験を蓄積していたから可能になった。

 ところが2007年に気象庁が5段階の警戒レベルや、それに応じての「噴火警報」が出される仕組みを作って前面に出ることになった。

 だがそれぞれの警戒レベルを決める客観的で数値的な基準もない。そのうえ地震や火山噴火などの専門教育を受けた気象庁の職員はごく少ない。庁内の人事異動で気象など他部門から火山監視に配置換えになることも多い。経験も知識も十分ではない可能性が高い。

 つまり5段階の警戒レベルや噴火警報を出す仕組みこそ出来てしまっているのに、肝心の噴火予知がいまだあてにならない。気象庁が噴火警報を発令するのを待って避難すればいいということはない。そのことが明らかになってしまったのが今度の噴火なのである。

 今回、「警戒レベル1」という「安心情報」を出してこれだけの被害を生んでしまった責任は重いというべきであろう。

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